
出典:滴生舎
日本全国漆器の産地はありますが、岩手県二戸周辺で作成されている浄法寺漆は他の産地とはかなり異なります。
それは漆の採取から製造まで一貫して行われていること。
実は漆器に使われている漆の97%は中国産。
日本で漆はほとんど採取できなくなっているのです。
ここ浄法寺は国産にこだわり60%以上国産漆を使用。漆の育成も積極的に行っています。
国産漆を使った漆器とは?
その魅力や特徴についてご紹介します。
浄法寺漆とは
岩手県盛岡市、二戸市、八幡平市、滝沢市周辺で作られている漆です。
かつては「ジャパン」と海外では呼ばれるほど日本代表の工芸品である漆器ですが、今ほとんどその漆は国内では採取できなくなっています。
ご存じの通り漆は「漆」の樹液。
漆の木そのものが育てられなくなっているのです。
少量の国産漆のほとんどは重要文化財などの修復に使われ、漆器で使用している産地はほとんどないと言います。
そんな中、漆の木の育成から生産まで担っているのが浄法寺。
良質な漆が採取できるため、漆を採取する職人さんもいます。
採取した漆の品評会も開催されるほど。
元々は塗りの産地というより漆の産地であった浄法寺。
今では国産漆をもっと普段使いに、というコンセプトのもとシンプルで丈夫な様々なアイテムが作られています。
元々庶民が使う器を中心に広まった浄法寺の漆ですが、江戸時代になると藩主への献上品が作られるようになり、蒔絵を施した豪華な漆器が作られるようになりました。
藩がなくなっても庶民への需要は変わらず高かったそうですが、前後合成樹脂の器が出回ると一気に衰退。
昭和50年ごろ、岩手県が復活への取り組みを行い、現在また国産漆を使用した美しい器が日々作られるようになりました。
1985年、国の伝統工芸品に指定されています。
他産地では見れない漆器ができるまで
繰り返しになりますが、浄法寺は漆を採取するところから始まっています。
それゆえ、漆器の土台を作る職人「木地師」・漆を塗る「塗師(ぬし)」のほか漆を採取する「掻き子」と言われる職人さんがいます。
漆を育てていない他産地ではこの職人さんも不足しています。
漆の採取
漆の採取は大体6月くらいから始まると言います。
漆を採取することを「漆を掻く」と言います。よってその職人さんを「掻き子」と呼ばれています。
(塗師と兼任している方もいます)
天然の漆は今ほとんどなく、植栽されたもの。よって掻き子は樹齢20年以上の漆を山で選び、保有者から買い取ります。
いきなり幹にざっくり傷を付け、一気に採取するのではなく、慎重に手始めに2センチほどの切り込みを入れ、その後少しずつ傷を増やし、2~3カ月ほどかけて少しずつ採取していきます。
最初の切り込みを「目立て」と呼び、樹液(漆)を出やすくするための手始めの作業です。
目立てのあとも3~4センチの傷をつけて行きます。
これは「上げ山」という作業で、漆の花が咲き終わった直後が最適とされています。
その後4日位の感覚で辺を刻んでいきます。
辺とは筋のような幹に入れる傷のこと。
漆を採取した幹は最後、洗濯板のような線状の凹凸ができます。
漆を採取するタイミングは職人によって異なり、最初に採取する漆を「初漆」と言います。
ピークは8月ごろ。この時採取する漆を「盛漆」と言われ、一番良質で量も採取できます。
9月くらいになると量も少なくなり、このころに取れる漆を「末漆」と呼びます。
主に下地などに使われます。
こうして数カ月に渡って樹液を採取した木は最後伐採します。
厳密にはそこからまた再生されるので、木を殺すことにはならないのですが浄法寺ではこうした経緯から「殺し掻き」と言うそうです。
漆の性質・量は職人によってかなり異なるそう。
漆を掻くタイミングや辺のつけ方などが繊細に影響されるとか。
ただ、大体1本の木から採取できる漆の量は概ね200g程度とも言われています。
採取した漆はゴミなどを取り除き、塗料として使用できるように調合されます。
木地の作成
木地の生成は他産地とあまり変わりません。
一般的に漆はわっぱなどの曲げモノやカンナなどでくりぬく刳モノ、板を組み合わせる指物やろくろで削りだす挽きモノがありますが、浄法寺の漆器のほとんどが挽きモノ。
一時は浄法寺では木地師さんの人材不足が深刻だった時代もあったそうです。
浄法寺の漆器の土台の木地はトチ・ケヤキ・ミズメ・クワなどが主流。
大割り・小割りなど無駄のないよう大まかに木材を切り出します。
その後荒削りをし、乾燥には3~4週間。
さらに中挽き・仕上げという手順で塗装前の木目の美しい器を成形していきます。
塗り
塗り工程も他の漆採取や木地作り同様、工程が多い。
担当するのは「塗師」と呼ばれる職人さん。
木固めとも呼ばれる下地塗りは塗っては磨き、塗っては磨きを数回繰り返し、下地だけである程度の厚みがでるまで繰り返します。
下地に使われるのは末漆と呼ばれる漆掻き終盤に採取された漆。
本塗りは盛漆が使われ、塗っては乾燥の繰り返し。
漆は適度な温度と湿度により固まる性質があるので、乾燥環境も整っているのが鉄則。
浄法寺の漆は粘度が高いため、伸びが悪いそうです。
均等に美しく仕上げるためには、塗師の職人技が試されます。
浄法寺漆の特徴
漆にはウルシオールという成分が入っていて、これが漆特有の風合い・個性を出します。
浄法寺の漆にはこのウルシオールが多く含まれており、粘り気があり強度も高いのが特徴。
さらに顔が映りこむような光沢はなく、どちらかというとマットな仕上がりとなっています。
装飾はほとんどされていないため、見方によっては味気なく感じるかもしれません。
ですが、使うほどに独特のツヤがでてき器を育てる楽しさが味わえます。
マットな質感は手の馴染みもいいので不器用なお子さんにも安心です。
浄法寺漆の選び方
浄法寺漆はシンプルながら価格帯は少し高めです。
その中でも価格幅は広く、それは下地含めて浄法寺の漆を使っているか、下地は中国産を使っているかの違いです。
岩手県他では百貨店などの催事などで出品されているので、そこで実物をご覧ください。
お椀などの高台部分に「浄」という文字が書かれているのが一種の保証となっています。
そのほか、浄法寺の漆しか使用しないという浄法寺うるし専門の漆器製作工房「滴生舎」産のものは「滴」の文字が書かれています。
ひとつの目安にしてください。
念のための補足です。
他産地のほとんどが中国産を使っていると説明しましたが、だからといって国産漆を使用している浄法寺塗に劣るということではありません。
国産と中国産ではウルシオールの含有量が違うとか、多少の性質が異なるというだけです。
なので、浄法寺の漆器は良質で、他産地のものは悪いというわけではありません。
漆の取り扱いや選び方についてはこちらも合わせてご参照ください。
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