鎌倉・鎌倉時代が改めて注目を浴びている2022年。
源頼朝が鎌倉に武家政権を確立させ、このころから本格的な漆器の制作も始まりました。
鎌倉彫はまさしくその鎌倉で鎌倉時代に始まった漆器です。
レトロチックで現代でも可愛さ満点の鎌倉彫の特徴と魅力について。
ぜひ工芸の観点から鎌倉を見直してみてください。
鎌倉彫とは
「鎌倉彫」というと漆器か木工かという議論になるほど最大の特徴は木地(漆を塗る前の土台の木)の彫刻にあります。
それゆえ、漆器ですが「鎌倉塗」でなく「鎌倉彫」と呼ばれています。
「木を彫り、漆を塗る」という技術とむすびついた総称で鎌倉で作られているからではありません。
鎌倉彫の作業工程は他の漆器同様、完全な分業となります。
鎌倉彫の場合、木地師と塗師(ぬし)の間に彫師と言われる木彫を行う職人がはさむ場合もありますし、木地から塗りまでおひとりで担う職人さんもいるそうです。
鎌倉彫の木地師は器を作成するだけでなく、絵柄をデザインし、実際彫刻のような美しい造形を施します。
ではなぜ鎌倉彫だけが。他産地の蒔絵や螺鈿といった装飾でなく木彫りという、このような造形になったのでしょうか。
その歴史から見て行きます。
歴史
源頼朝が征夷大将軍となり、鎌倉が政権の中心となったことにより武家政権が確立されました。
このころ中国の宗文化を積極的に取り入れるようになりました。
その文化の一つが唐物の彫漆器です。
堆朱(ついしゅ)、堆黒(ついこく)という中国の美術工芸品は特に重宝されました。
これらは木に何度も漆を塗り重ねたもので、木彫の土台に漆塗りをし、仏具を作ったのが鎌倉彫の始まりとされています。
鎌倉幕府滅亡後、室町~桃山時代になると変わらず寺院用仏具が多く作られ、中国の様式を踏襲しながらも鎌倉彫は日本独自のスタイルと確立していきます。その技術はさらに高まり、彫りもどんどん繊細なものになってきました。このころの公家の日記に「鎌倉物(かまくらもの)」と呼ばれた記述が残っています。
禅宗文化の一環としての茶の湯文化が発展していき茶道具の香合や茶箱なども作られるようになります。
寺社に関わるもの中心に制作されていた鎌倉彫ですが、江戸時代になると大衆向けのアイテムも多く作られるようになりました。茶道具は香合はじめ、益々制作されるようになり、大衆向けとしては火鉢や手焙などが作られるようになりました。
現在のような盆や菓子皿のような日用品が作られるようになったのは明治以降とされています。
今では多種多様な鎌倉彫アイテムが現在の生活に馴染めるようなデザインで数々作られています。
1979年、経済産業指定伝統工芸品に指定され、現在伝統工芸士として20数名が活躍しています。
工程
鎌倉彫は他漆とほぼ同じ工程で作られますが、木地師は彫刻家的な技術が要求されます。
1.木取り
鎌倉彫は大抵桂(かつら)の木が使われてます。
北海道産の桂を切りだし、半年以上乾燥させます。
その後、墨付け、カット後、ロクロによる荒挽き、仕上挽きなどの工程を経て成形の土台ができます。
ここまでにざっと1年ほどかかります。
2.挽(ひき)物・指(さし)物・刳(くり)物つくり
盆や皿などは挽きと呼ばれ、ろくろで荒挽き、乾燥、仕上げを行います。
板と板を合わせるものは指物、木をくりぬくものを刳物と呼ばれています。
鎌倉彫のアイテムはそのほとんどが挽物です。
3.絵付け
製品に合わせて図案を決めます。
さらに図案を薄い和紙に下絵を写し取り、木地を軽く湿らせその和紙を押しつけ木地に転写します。
ここからは彫師の仕事になります。
4.たち込み
小刀で下絵に沿って切り込みを入れていきます。
下絵でどの部分を大きく浮きだたせるかによって切り込みの深さを決めていきます。
たち込みを入れる角度により、その彫りの表情が異なってくると言われています。
5.際取り
たち込んだ線の外側を落としていきます。
その深みによって鎌倉彫特有のレリーフが出来上がっていきます。
どのくらいのボリュームを出すか、彫師の腕の見せ所。
6.刀痕
盛り上げた文様の部分以外の地の部分に、その文様に合わせ刀痕(削り後)をつけて行きます。
これも鎌倉彫ならではの特徴。
なんかごつごつしそうと思われるかもしれませんが、ここに漆を塗ることにより特有の表情がでてくるのです。
7.こくそ
漆・木粉・糊・綿を混ぜたものを「こくそ」と言いますが、これで傷や欠けなどの補修を行います。
一旦彫を埋めるので、固まったらまた彫り出し、ペーパーをかけるという作業を繰り返します。
8.木地固め
ここから塗師(ぬし)の仕事。
生漆(きうるし)と言われる採取したそのままの漆を塗り、木地の細かい溝などを埋めていきます。
この生漆は塗るというより木地に染み込ませるため、木地の強度を増す効果もあります。
9.蒔き下地
炭粉(木炭の粉末)あるいは砥(と)の粉を蒔きつけていきます。
掘り出した文様部分に生漆を同じ厚さに塗ります。
凹凸のある鎌倉彫ならではの作業で、この作業により丈夫で滑らかになるとされています。
10.中塗
黒漆で塗っていきます。
鎌倉彫は表面がレリーフ上になっているので、凹んでいる部分にはどうしても漆がたまりがちです。
そこを削りながら2回ほど塗ります。
11.上塗
朱色の顔料を混ぜ合わせ上塗りしていきます。
乾燥には2日ほどかかるので、塗っては乾かしてを数回繰り返します。
そこから 生乾きのときを見計らって、まこも粉を蒔きつけます。乾いたら磨くを繰り返します。
12.摺漆、仕上げ
再度生漆を全体的に塗っていき磨き、仕上げます。
鎌倉彫の特徴
鎌倉彫の特徴はなんといっても彫刻のような彫りのディテールにあります。
漆は深い赤のものが多く、使うほどにツヤがでてきます。
最近ではモダンな多色使いのアイテムも増えているので、お気に入りを見つけるのも楽しそうですね。
明治時代のような100年保証はありませんが、丈夫なのは確かなようです。
今も茶道具なども多く制作されていますが、ほとんど普段使いできるアイテムなので気軽に試せそうです。
一面彫を施されているものから、一部だけのものなど、その趣向も様々。
鎌倉彫の魅力
彫りが施されているため、木地は厚めなので丈夫。
明治時代にはなんと、100年間の保証書がついてた時期もあるそうです。
工程を見てもわかるようにかなり仕上げまでかなりの手間と時間がかかる工芸品ですが、比較的リーズナブルに購入できるのも魅力のひとつ。
彫が一部だけに施されているものから製品全体に彫があるものまで多種多様。
他の漆器にはない豊かなバリエーションも鎌倉彫の魅力です。
以上、鎌倉彫には他漆器にない特有のディテールの美しさがあります。
軽くて丈夫。
敷居が高いなんてことはまったくありません。
普段人気の鎌倉ですが、2022年の大河ドラマからさらに注目を増しています。
鎌倉駅近くには鎌倉彫資料館もあるので、一度除いてみるのもいいかもしれません。
鶴岡八幡宮近くには専門店などもいくつかあります。
お参りの時に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
益々人気が高まる予感のする鎌倉彫の話でした。
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