日本最大の焼物の産地といっても過言ではない、岐阜県美濃地区。
ここで作られる美濃焼は、日本で一番生産量が多い焼物です。
なんと、食器類の生産量が全国シェアの約60%をしめているというデータも。
きっと知らずに日本人の誰もが美濃焼を使ったことのあるはずですよ。
歴史は古く、茶人にも愛された焼物。
その歴史や特徴、魅力についてのお話です。
美濃焼とは
「美濃焼」と聞いてすぐにイメージがわきますか?
美濃焼は現在、これといった特徴はありません。
織部・志野・黄瀬戸など多種多様な器は千利休・古田織部など茶人やお茶を愛した織田信長や豊臣秀吉など武将たちにも愛され、その様式を変えていきました。
岐阜県の土岐市、多治見市、瑞浪市、可児市の東美濃で作られた焼物を総称して美濃焼と呼びます。
産地はかなり広く各地域によって趣向も異なります。
土岐市は特に町によって得意アイテムがあります。
駄知町はどんぶり、下石(おろし)町は徳利、笠原町はタイル、肥田町は皿など。
もちろん各窯元さまざまなアイテムを作っていますが、町全体でひとつブランド化しています。
駄知町の陶器会館は「どんぶり会館」。東京で毎年開催されるテーブルウェアフェスティバルでは「駄知のどんぶり」という特設コーナーができるほど。
下石は徳利の町として「とっくりとっくん」というゆるキャラ?が町の随所に出没しています。
陶器でできた置物を町の中に設置するなんて、東京では考えられませんが、ぶらぶら歩いていると度々出くわします。
写真は10年ほど前に私が訪れて撮影したものです。
表情がとても豊かです。
量産できる窯元も増え、陶器だけでなく磁器も作られるようになり、全国展開の大手飲食店などの器の生産やノベルティなどの生産なども担っています。
居酒屋などでの取り扱いも多く、日本人であるかぎり一度は使ったことがある焼物と言ってもいいかもしれません。
美濃焼の歴史
美濃焼の歴史は1300年以上とも伝わっています。
古墳時代~奈良時代、朝鮮半島からろくろ(土を回転させる台)と穴窯の技術が渡ってきました。この美濃地区の山の斜面で「須恵器(すえき)」と呼ばれる硬い土器を焼いたのが始まりとされています。
およそ5世紀くらいのころです。
その後平安時代になり、釉薬をかける器が作られるようになりました。
このころの釉薬は「灰釉」といって、グレーっぽいシンプルなものです。
それでも当時釉薬のかかった器は珍しく、貴族や僧侶中心として使われていました。
桃山時代には茶陶日本一の産地となり、江戸時代になると磁器の生産も始まります。
現代では機械化も進み、飲食店向けの食器などを作る窯元も多く、陶磁器の生産量は日本一となっています。
磁器のモザイクタイルの生産も美濃焼が日本初です。
美濃焼の特徴と魅力
繰り返しになりますが、美濃焼にはこれといった特徴はありません。
先に述べた通り、本来は陶器の産地ですが、磁器も多く生産されています。
さらに飲食店向けの器など商業向けが多くなり、さらに伝統工芸士含め作家も大衆向けに移行しつつありその様式はかなり多種多様になってきました。
そのため、一見で美濃焼とわかるものは少なくなってきています。
美濃焼の歴史とともに今もなお一部で作られている代表的なものをご紹介します。
黄瀬戸(きせと)
美濃焼や瀬戸焼にも見られる釉薬で、美しい落ち着いた黄色の釉薬です。
室町時代末期から安土桃山時代に作られてきたとされています。
黄瀬戸と言われるのは元々は愛知の瀬戸が発祥とされていたため。
その後の研究で岐阜の美濃が発祥と分りました。
光沢の強い灰釉の古瀬戸系黄瀬戸と釉の中に黄土を混ぜた、油揚げ肌と言われる黄瀬戸があります。
志野
まるで砂糖菓子のような風合いの志野。
昔は磁器がなく、白い器はどこか憧れがありました。
そこから生まれたという志野。
多くの茶人も志野茶碗を愛し、しっとりと手になじむその感触も人気の理由の一つだったに違いません。
表面は無数の気泡があり、厚手の志野の器は優しい風合いで、ほっこりします。
よく赤っぽいものもこれも志野の特徴。
自然と出るものなので、意図的には出せないと言います。
日本で初めて絵付けしたのも志野と伝わっています。
織部(おりべ)
美濃焼の代表と言っても過言ではない織部。
千利休の弟子でもあり、秀吉にも仕えた武将であり茶人でもある古田織部がルーツとも言われています。
ガラス質の深い緑は、器ならどの食材でも合い渋くもありモダンにも見える魅力的な釉薬です。
多治見市には「オリベストリート」という400メートルほどのストリートがあり、昔からの多治見の風景と多くの陶磁器の店舗が並びます。
黒織部
お茶を点てる茶碗に多く見られる黒織部。
黒茶碗に一部絵付けがされています。
紛らわしいのは「織部黒」というものがあります。
織部黒は黒織部のような絵付けはなく、基本的に黒一色。
美濃焼おススメ窯元
いくつか知っている窯元で特におススメをご紹介します。
南窯
作陶は工藤さん一人で行っている、土岐市駄知町の小さな窯元。創業50年を超えます。
工藤さんは美濃焼の伝統工芸士でもあります。
一人で作っているとは想えないほど流通は広く、東京のAKOMETA TOKYOはじめ様々なショップで取り扱われています。
美濃焼らしい風合いを持ちながら、シンプルでどこかモダン。
食材を選ばない使い勝手の良さと、手仕事にしてはリーズナブルな価格帯が人気のヒミツ。
実は私もここの器のファンでヘビーユーザーです。
東京でも購入できるショップが多いのでぜひ。
楽天での取り扱いもあります。
不動窯
こちらも土岐市駄知町の窯元。
量産も行っています。
織部の器なども多く生産しており、暮らしになじむアイテムからちょっとこじゃれた器まで幅広く展開しています。
私が個人的におススメしたいのはやはり織部の器。
とても美しい深みのある緑が特徴です。
比較的リーズナブルなのも嬉しいですね。
カネコ小兵製陶所
土岐市下石町の窯元。
「あ、見たことある」と思う方も多いかもしれません。
ここの代表陶器が「ぎやまん陶」と言われる一見ガラスのような美しい陶器。
モダンでシンプル。
カラー展開のみで絵付けなどは一切ありません。
洋食器と思うほどそのフォルムと質感は洗練され、若い方にも人気です。
これも南窯同様AKOMETA TOKYOはじめ東京での取り扱いの多い美濃焼です。
一度見ると忘れられないインパクトがありますよ。
そのほか、セバスチャン・コンラン氏とのコラボシリーズもおススメ。
宗山窯
漆と陶器を合わせた和モダンな漆陶シリーズがこの窯元の代表ラインアップ。こちらも土岐市駄知町にある窯元です。
ちょっと他にはないテイストですよね。
表面が漆だけに手にしっくり馴染みます。
食卓にちょっとアクセントになり華やかさがでます。
成形から絵付け、漆塗りまですべて手作業で作り上げるこのシリーズは独特の重厚さと、ちょっと日常に取り入れたい器です。
以上、武将や茶人が愛した美濃焼の歴史と魅力についてでした。
日本人なら誰もが一度が使ったことのある美濃焼。
その産地に足を運ぶのも楽しいですよ。
美濃焼の陶器市は有田・益子とならび日本三大陶器市とされています。
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