歌舞伎「文七元結」見どころとあらすじ

元々落語の話だった文七元結。
人情噺で初代三遊亭圓朝作と伝わっています。

歌舞伎用に書き換えられた演目は「人情噺文七元結」として度々上演されています。

江戸情緒たっぷりの本演目の見どころとあらすじをたっぷりと。

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文七元結(ぶんしちもっとい)とは

先に述べた通り幕末から明治期にかけて活躍した名人三遊亭円朝原作の人情噺を歌舞伎化したものです。
明治に五代目尾上菊五郎が歌舞伎座で初演し、人気狂言となったと伝わります。

歌舞伎上演の際には「三遊亭円朝口演」と掲げられることがよくあります。
その由来には諸説あるようです。

十八世中村勘三郎は「男はつらいよ」などで有名な映画監督山田洋次と一緒にシネマ歌舞伎の映画を作っています。

「文七元結」とは美濃の紙漉き職人桜井文七由来とも言われています。
桜井文七は実在した人物で水に強く引っ張っても切れない紙紐を考案、元結(髷を作る際髪を束ねる紐)を作っていました。

江戸に移り住みそこでも有名な元結屋となり、代々「文七」を襲名されていたため圓朝がモデルにしたとも伝わりますが、このタイトルの由来は諸説あります。

江戸を舞台にした人情味ある演目で、歌舞伎初心者でも楽しめる演目です。

主な登場人物

そのときによって多少異なります。

【長兵衛】
左官職人。ただ毎日博打と酒に明け暮れ、常にお金に困っている。

【お兼】
長兵衛の女房。毎日博打でお金をする夫と毎日喧嘩。

【お久】
長兵衛とお兼の娘。気立ての良い十五歳。

【文七】
長兵衛に助けられる近江屋の奉公人。

【甚八】
長兵衛たちが暮らす長屋の家主。

【お駒】
角海老女将。親切な女将。

【清兵衛】
近江屋の主人。感謝の思いからすべてをうまくまとめていく。

文七元結のあらすじ

第一場 本所割下水長兵衛内の場

舞台は江戸の本所達磨横町(現在の墨田区)。
左官職人の長兵衛は腕は良いが酒と博打に溺れる毎日を送っています。

ある年の暮れ、博打に負けた長兵衛は持ち金がないことから着ていた着物をはぎとられ、帰宅します。
家では妻のお兼が娘のお久が家を出たまま帰ってこないと心配しています。

長兵衛とお兼は喧嘩の毎日でお互い離縁も考えているという状態でした。
十五になる娘のお久は孝行娘と評判で、親に何も告げずに家をでることなどこれまでに一度もありませんでした。

お久が出て行ったのはこの貧乏暮らしに愛想を尽かしたからだとお兼は長兵衛を責めます。
そこへ吉原の角海老の手代藤助が訪ねてきました。

お久を店で預かっているから迎えにきてほしいとのこと。
お久はなんと店に出ていると言います。

長兵衛は残り一枚の自分の着物を先ほど博打に負けて取られてしまったので、お兼の着物をはぎとり、藤助から羽織りを借りて吉原へと出かけます。

第二場 吉原角海老内証の場

貧しい家でお金のことで不仲となった両親。少しでも生活が楽になればと、お久は身を売ってお金を稼ごうと吉原へ入りました。

女将のお駒はじめ、店のものは健気なお久には優しくします。
そこへ長兵衛がお久を迎えに来、お久を見つけるなり激しく叱りつけます。

お駒は何のためにお久が身を売ろうとしたのか、誰がお久をここまで追い詰めたのかと長兵衛に詰め寄ります。お駒の言葉で初めて自身の至らなさを自覚する長兵衛でした。

お駒は長兵衛に50両貸すからこの日限りで酒も博打もやめると約束させ、その50両ですべての借金を返して働くよう説得します。それまでは店には出さずにお久を翌年3月まで預かると申し出ました。長兵衛は必ず仕事を見つけお久を迎えにくると約束しました。

お駒は約束だよと念をおし、長兵衛に50両貸します。
長兵衛はその50両を持って店を後にしました。

二幕目 第一場 本所大川端の場

早くこのことを妻のお兼に伝えようと足早に家へと急ぐ長兵衛は、本所の大川端で身投げしようとしている若い男に出くわしてしまいます。必死に止める長兵衛。事情を聞くところ男は和泉屋の手代文七。仕事で預かったお金50両を何者かに奪われてしまい、もう死んで主に詫びるしかないと話します。

お金にだらしない長兵衛ですが、情に熱い江戸っ子。
どんなに止めても川へ飛び込もうとする文七に、お駒から借りた50両を投げつけるように渡します。
そのお金の事情を聞いた文七は拒みますが、長兵衛は名も告げずにその場を後にしてしまいました。

文七は唖然としながらも姿の見えなくなった長兵衛へ感謝します。

二幕目 第二場 元の長兵衛内の場

帰宅した長兵衛はこれまでのいきさつを妻のお兼に話しますが、日頃の行いから当然信じてもらえません。
どうせ道中また賭け事でもやってきたのだろうと、また大げんかになります。

大声を聞いて駆けつけてきたのは大家の甚八。
喧嘩を止めていたところ、先ほどの文七が主の和泉屋清兵衛とやってきます。

どうにか長兵衛宅を探し当てたとのこと。

文七が盗られたと言っていた50両は実は取引先に忘れていたとのこと。
つまりは文七の勘違いだったのです。(命を失わずに良かったですね。)

文七から長兵衛の50両の話を聞いた清兵衛は感動し、お久を吉原から身請けし長兵衛夫婦のもとに返します。

さらにお久を文七のもとに嫁いでほしいと懇願し、お久と文七はめでたく結婚。
清兵衛の店を暖簾分けするかたちとなり、二人のお店を始めることとなりました。

そのお店で売り出したものが丈夫な和紙で作られた元結。これを「文七元結」という名で売り出し、皆から祝福され幕となります。

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文七元結の見どころ

元が落語の噺だからかもしれませんが、歌舞伎の演目にしては珍しく?騙し騙されとか、奪い奪われなどの「悪」がでてきません。

長兵衛はだらしない男ですが、情にあつく、実際50両を返しに来た清兵衛に、一度あげた金は受け取れねえなどと江戸っ子らしい頑固さをみせます。

馬鹿か、と呆れますがどこか憎めず、実際喧嘩ばかりの夫婦も離れられずにいます。

江戸を舞台としたほっこりする人情たっぷりの演目です。

長兵衛にはまる役者は誰?

現在の歌舞伎役者でいうと七代目 尾上菊五郎さんが定評あります。
最近はその子息、尾上菊之助さんが演じることも度々あります。

ひと昔前、シネマ歌舞伎で十八代中村勘三郎さんが「男はつらいよ」などでおなじみのる名匠・山田洋次監督とタッグを組み、生の舞台とはまたちがった味わいの映画を作り上げ話題になりました。

2023年10月大歌舞伎は必見

文七元結のストーリーがわかったところで、観たいと思った方必見!
2023年10月歌舞伎昼の部、シネマ歌舞伎で監督を務めた山田洋次脚本・演出で「文七元結物語」という外題で上演されます。

しかも!

尾上菊五郎さんの娘、寺島しのぶさんが長兵衛の女房お兼役で舞台に立ちます。
ご存じの通り歌舞伎の舞台で女性が出演するのは珍しいこと。(歴史上初ではありません)

お馴染み女優として数々の賞を受賞している実力派。
幼いころは本気で歌舞伎役者になると夢みて、それが女性で生まれたことによって叶わないと知ったときは本当にショックだったと言います。
きっと満身創痍の舞台となることでしょう。

楽しみですね。

落語から始まり、歌舞伎で演じられ、ついにはスクリーンになった文七元結。
歌舞伎初心者におススメの演目です。

席はどこからも楽しめますが、できれば花道の見える1階または2階席をおススメします。

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