歌舞伎「与話情浮名横櫛」(切られ与三)見どころとあらすじ

与話情浮名横櫛

三代目歌川豊国画

ちょっと読みにくいタイトルですが「与話情浮名横櫛」よはなさけうきなのよこぐしは「切られ与三」という通称で大人気の演目。
「しがねえ恋の情けが仇」という台詞が有名な実話をもとにしたという恋の話。

一旦上演されればたちまち大入りになる人気演目のあらすじと見どころをご紹介。

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「与話情浮名横櫛」よはなさけうきなのよこぐし とは

三代目瀬川如皐作の世話物。
江戸時代、長唄唄方である四代目芳村伊三郎の若いころの実体験が元になっていると言われています。
初め、講談で語られたこの話はやがて瀬川如皐の手により舞台化。

九幕十八場という長編ですが、最近は三幕目「源氏店(げんじだな)」か序幕から三幕までという場合がほとんどです。

通称「切られ与三」でも親しまれ、歌舞伎初心者でも楽しめる演目です。

与話情浮名横櫛登場人物

主な登場人物のご紹介です。

お富(おとみ)
赤間源左衛門の妾で元は深川の芸者。
木更津の海岸で出会った与三郎とお互い一目で恋に落ち、逢引を重ねるようになります。

伊豆屋与三郎(いずやよさぶろう)
江戸の小間物屋・伊豆屋の養子で跡取り息子でしたが実子の弟に家督を継がせるためあえて遊びまくるように。
木更津の海岸で出会ったお富と恋に落ち度々会うようになりますが、お富の身請け人赤間源左衛門に見つかり全身に34ヶ所の傷を負うことに。

蝙蝠の安五郎(こうもりのやすごろう)
頬にこうもりの入れ墨があることからこう呼ばれるように。
与三郎の傷をネタに、お富から金をゆする悪党。

和泉屋多左衛門(いずみやたざえもん)
鎌倉の大きな質屋和泉屋の一番番頭。川へ身投げしたお富を助け妾にします。しかしお富は生き別れになっていた実の妹という関係。

与話情浮名横櫛・切られ与一あらすじ

通しですべて上演されることのなくなった本演目。
今回は概ね知っておくべき第三幕までのあらすじをご紹介します。

序幕:木更津浜辺の場(見染)

江戸の小間物問屋伊豆屋の若旦那与三郎。
養子であるゆえ、家督は家の実子の弟与五郎が継ぐべきと自分はあえて遊びほうけ、ついには勘当されてしまいます。
木更津の知り合いのところに身を寄せて暮らしていたある日、ふらっと浜辺へ出かけるとすれ違ったお富に一目ぼれしてしまいます。

お富はやくざの親分赤間源左衛門の妾。この日は子分などと一緒に浜遊びに来ていました。お富は元々は深川の芸者。源左衛門に身請けされていました。

実は与三郎とすれ違ったこの時、お富も江戸育ちの男前の与三郎に惹かれていたのです。

赤間別荘の場

お互い惹かれあった与三郎とお富は密会を重ねるようになります。

ある日、赤間源左衛門が鎌倉へ行くこととなり、お富は赤間の別荘へ与三郎を招きます。
二人の時間を楽しんでいたところを源左衛門の子分に知られてしまいます。
その知らせを聞いた源左衛門はすぐに別荘へと引き返してきました。

源左衛門と鉢合わせになった二人。
怒り狂った源左衛門は与三郎に斬りつけ、顔や身体に34ヵ所もの傷を負わせます。

一方逃げ出したお富は海に身投げしましたが、偶然通った船に助けられます。

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源氏店妾宅の場

それから時は経ち三年後、舞台は鎌倉。
身投げから救われたお富は質店和泉屋の番頭多左衛門に囲われ、源氏店(げんじだな)の妾宅で平穏な日々を送っています。

一方与三郎は右の頬にこうもりの入れ墨があることから蝙蝠の安五郎と呼ばれる男の相棒となり、本人も「向疵の与三」として悪名を馳せていました。

身体の34もの刀傷を売り物に金をせびる毎日。元々は気立てのよい性分だったその面影もすっかりなくなっていました。

ある日、二人は金をたかるためお富の住む家を訪ねます。

最初はお互い気づかないのでしたが、与三郎はふとその妾がお富だと気づきます。
生きていたのかと驚くとともに、また誰かに匿われて平穏無事な暮らしをしているお富にだんだんと腹が立ってくる与三郎。

ついに頭からかぶっていた手ぬぐいを取り、お富に素性を明かします。

ここであの有名な名台詞「しがねぇ恋の情けが仇(あだ)~」が述べられます。

そこへ和泉屋の番頭多左衛門が戻ってきます。
とっさにお富が兄だと与三郎を紹介します。しかし実はこの多左衛門こそ生き別れたお富の本当の兄。

「お富を囲っているが男女の関係はない」と多左衛門は与三郎に商売を始めるためのお金を渡します。

臍の緒書(ほぞのおがき)の場

金をもらった蝙蝠の安五郎と与三郎は去ります。

多左衛門はお富に自分の守袋を渡して店に戻ります。
その守袋を開くとお富は多左衛門が自分の兄ということが分ります。

そこへ多左衛門が店に戻ったところを見計らい、和泉屋の番頭籐八が現れ、お富を手篭めにしようと迫ります。
ふと戻ってきた与三郎がお富を助けます。

二人はよりを戻す流れに。

ここまでが四幕。
このお話はここからが長いのですがまず上演されることはありません。

この後は与三郎の人生の紆余曲折が描かれています。
与三郎が和泉屋でゆすりを働いたき島送りになったり、そこから脱獄したり。その間お富はまたしても他の男に取られていました。
しかもその男は与三郎の古くからの知人。
最後はその旧知の観音久次の自己犠牲で与三郎の傷痕が消え、実家のお家騒動の解決に励む内容となっています。

与話情浮名横櫛・切られ与三見どころ

江戸の美男美女が会っては別れを繰り返し、再会を果たしたときに妬み半分に皮肉たっぷりに言い放つ与三郎のこの台詞。

しがねぇ恋の情けが仇(あだ)
命の綱の切れたのを
どう取り留めてか 木更津から
めぐる月日も三年(みとせ)越し
江戸の親にやぁ勘当うけ
拠所(よんどころ)なく鎌倉の
谷七郷(やつしちごう)は喰い詰めても
面(つら)に受けたる看板の
疵(きず)が勿怪(もっけ)の幸いに
切られ与三(よそう)と異名を取り
押借(おしが)り強請(ゆす)りも習おうより
慣れた時代(じでえ)の源氏店(げんやだな)
その白化(しらば)けか黒塀(くろべぇ)に
格子造りの囲いもの
死んだと思ったお富たぁ
お釈迦さまでも気がつくめぇ
よくまぁお主(ぬし)ゃぁ 達者でいたなぁ
安やいこれじゃぁ一分(いちぶ)じゃぁ
帰(けぇ)られめぇじゃねぇか。

恨みつらみをたっぷりと含めたこの言い回しは役者の見せ所でもあります。

与話情浮名横櫛・切られ与三トピック

こんなドラマチックな話が実際にあったのかと思えますが、歌舞伎の演目としては人間模様は比較的シンプル。

お富さんは実際モデルになった夫婦の間に生まれた子の名で、「源氏店(げんじだな)」の場の源氏店は、元々は史実の「玄冶店(げんやだな)」に由来しています。

玄冶店は家光の将軍お抱え医者岡本玄冶の屋敷のあった場所です。

外題につけられている横櫛とは櫛を斜めに指す髪留めの役目を果たすもので、お富の髪に刺されている小道具を指しているようです。

この演目は八代目市川団十郎が与三郎役にピタリとはまり、大評判となりました。江戸での公演を大成功しその翌年、大阪公演初日を迎える直前に自殺。

そのショッキングな事件と演目がセットで語られることから長らく上演されなかった時代があると言います。

今となっては大人気の演目。
世話物の名作と言われるほどなので一度見る価値ありです。

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