熊本県の伝統工芸でもある肥後象嵌(ひごぞうがん)。
元々は刀のつばなどに施されていた装飾が今やおしゃれなアイテムに。
スポーツのメダルにもなったことがあるという肥後象嵌とは。
伝統の技術がおりなす肥後象嵌の魅力をご紹介します。
肥後象嵌(ひごぞうがん)とは
象嵌は「象眼」とも書きます。
象嵌とは技術の名称であり、肥後象嵌は熊本に伝わる金工を指します。
肥後象嵌は鉄の地金に純金・純銀を打ち込んで装飾していく技法です。
「象」はかたどるという意味で、「嵌」ははめるという意味があります。
この技法は陶芸にもあります。
肥後象嵌には「布目象嵌(ぬのめぞうがん)」「彫り込み象嵌(ほりこみぞうがん)」といった技法があります。今では布目象嵌が一般的と言われています。
日本には他に京都の京象嵌、石川県の加賀象嵌などがありますが、肥後象嵌は特に武家色が強いと言われています。
重厚感のある品ある金工品はどのようにして現在に受け継がれているのでしょうか。
肥後象嵌歴史
象嵌の技術はシリアの首都であるダマスカスが発祥とされ、日本へは中国から600年前後に伝わったと言われています。
肥後象嵌が始まったのは江戸時代。
細川藩に鉄砲鍛冶として仕えていた林又七(はやしまたしち)が始めたとされています。
林又七は京の布目象嵌の技術を肥後象嵌に取り入れていきました。
元々林又七は加藤清正に仕えていましたがその後肥後藩主となった細川忠利に仕えることになりました。
忠利の父、細川忠興は林又七と当時抱えていた金工職人と技術を競わせ、結果肥後象嵌は技術ともに発展しました。
忠興はこの優美な肥後象嵌の風合いをとても好んだそうです。
肥後象嵌は武士の刀のつばや銃身の装飾に使われていました。
武家社会の隆盛と共に肥後象嵌の技術は磨き上げられ、優美な金工品として確固たる地位を築きます。
しかしながら時代は明治になると廃刀令が発令。
刀は日本社会から排除されるようになり、ともに肥後象嵌が脚光を浴びる場もなくなってきました。
時代が目まぐるしく動く中、肥後象嵌は茶道具や装飾品などで再び日の目をみることに。
今現在も身近なアイテムに取り入れられ、生活に取り入れられやすいアイテムが次々と職人の手により作り出されています。
そうして伝統は引き継がれ2003年、肥後象嵌は経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されました。
肥後象嵌の特徴と魅力
肥後象嵌の特徴はなんといっても塗料を一切使わず、漆黒のような地鉄の色にはめ込む金や銀の装飾。
それゆえに奥行きある優美な重厚感があります。
この重厚な金工が茶道具から日常使いのアクセサリーまで幅広いアイテムに展開されています。
素材は鉄。
黒っぽい地金は塗装でなくサビ。
そこに金や銀を文様に合わせて打ち込むので独特の華やかさがあります。
特に肥後象嵌の代表、布目象嵌は表面に目に見えないほどの細い溝を刻んでいきます。
(布目のような溝を刻むことからこの名がつきました)
その技術が、さらに重厚で優美な表情を作り出します。
ピアスなどは洋服も和服にも合わせやすく重宝します。
最近は植物や古典柄に加え、キャラクターデザインのものも増えてき、老若男女幅広く愛されています。
肥後象嵌製造工程
肥後象嵌に使う素材は鉄・銅・真鍮・赤銅・金・銀・青金など。
1. 生地作り
糸鋸を使って鉄の板を切り抜きます。
2.生地磨き
鉄の表面をやすりで磨いていきます。目の粗いものからはじめ、徐々に細かいやすりに変えていき、練金の表面の錆や汚れをこれで落としていきます。
3.地金
「ヤニ台」という、松ヤニと砥粉などを混ぜたものを厚くもったものに生地を固定させます。
滑り止めの役目と、上から叩いたときに陥没することを防ぎます。
ヤニ台に地金を固定したらまた
4.下絵描き
次は実際のアイテムに合わせ、図柄を筆で下絵を描いていきます。
直接筆で描く場合もありますし、薄紙や和紙に描いた下絵をタガネで生地に移す場合もあります。
5.布目切り
これが布目象嵌の真骨頂。
タガネを当て、縦・横・右斜め、左斜めの四方向に刻み目を入れていきます。その細さ1ミリ四方に5~10本くらい、場合によって15本前後も刻むようです。
しかもすべて均等でなく、縦の溝が一番深く、横が一番浅く、その幅を均等に入れていくそう。
まさに職人の技の見せ所です。
6.型抜き
象嵌のポイントとなる金属、金・銀・青金(金と銀の合金)などを一定の厚さに伸ばします。
肥後象嵌はこの厚さが京象嵌より4倍ほど厚いといわれています。
象嵌する金属を型タガネで打ち抜き、はめ込む図案の形に合わせたパーツを作ります。
その型抜きしたパーツを焼き、布目をつけた生地にしっかり馴染むようにします。
ちなみにパーツを焼くことを「なまし」といいます。
7.打ち込み
「なまし」をした金・銀・青金などを生地の布目の箇所に打ち込んでいきます。
鹿の角を使うことが多いそうですが、布目が表面に透けてみえるようになるまで丹念に叩いていきます。
8.叩き締め
金・銀・青金の表面に浮いて見える布目を金鎚でたたいて消していきます。(完全には消えません)
しっかりと地金とくっつき、表面は滑らかになります。
9.磨き
表面をこすって磨き上げます。
さらにまた鹿の角で叩きしめます。
10.布目消し
布目消し棒という先のとがった鉄の棒を使って不要な布目を押しつぶしていきます。
布目が消えたら、布目消し棒を寝かし広い部分の布目もつぶしていきます。
さらにキサキという道具を使い、表面を滑らかにしていきます。
11.磨き
生地の表面をさらに滑らかにし、布目を切る前のような滑らかな状態になるまで磨きあげます。
(せっかくの布目をここまでつぶしてしまうのはちょっともったいない感じもしますね)
12.毛彫り
はめ込んだ金銀片の細部を毛彫りタガネで文様を掘っていく作業。
毛筋ほどの細い線を彫ることから毛彫りと呼ばれるようになったそうです。
この作業をすることにより、文様部分に立体感がでてきます。
13.錆び出し
生地をヤニ台から外し、苛性ソーダを溶かしたお湯で煮ます。
松ヤニを洗い流したら次は薄い硝酸水溶液に浸け、表面を腐食させます。
アンモニアで中和し、最後に水で洗います。
錆液という液体を用い地金の部分に錆を生じさせます。
錆液を塗って火にかけ液を乾燥させ、また錆液を塗って火にかけるという作業を2時間おき、さらに2~3日かけて錆を出します。
この作業により肥後象嵌の独特な重厚感がでるのです。
14.錆止め
錆びを出しておいてから止めるというのも妙な感じがしますが、そのままにすると錆びが進行してしてしまいます。
そこで錆び出しした生地を一晩ほどおき、お茶で煮ます。
緑茶に含まれるタンニンが、錆びの進行を抑えるそうです。
30分煮て、水で冷やし、火であぶって完全に乾燥させます。
15.焼き付け
錆止めをした生地はその後油を塗って火で焼き付けます。
これは数回繰り返し行い、生地にしっかり膜を作ります。
最後は椿油で拭いて仕上げとなります。
16.アイテムに仕上げ
必要なパーツを取り付け、仕上がりとなります。
どんなに小さいアイテムでも同じ工程で作られます。
驚くほど緻密な作業で手間がかかっているのが分りますね。この工程があの独特の風合いをだしているんなと感じますね。
肥後象嵌人気アイテム
キラリと光る肥後象嵌の個性は、和服の帯留めや根付、洋服のタイピンやイヤリングやピアスなどが特に人気だそうです。
最近はくまモンのようなキャラクターグッズも出てきました。
私が特におススメの作り手さんをご紹介。
麻生翼氏。
デザイン性がよく、比較的リーズナブルです。
アイテムもアクセサリーや香立てなど日常に取り入れやすいものが中心。
男女問わす愛用できそうです。
私も愛用していますが、服装を選ばずしかも控えめな個性がキラリと光るのでとても気に入っています。
渋くて新しい、肥後象嵌。
ぜひお気に入りのイッピンを探してみてはいかがでしょうか。
贈り物としても喜ばれます。
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