歌舞伎 仮名手本忠臣蔵の見どころ

歌川豊国 忠臣蔵

歌川豊国画「忠臣蔵 出典:WIKIMEDIA COMMONS

年末になると文楽が歌舞伎でどこかで上演される「仮名手本忠臣蔵(かなてほんちゅうしんぐら)」
もう映画やドラマでもお馴染みなので、ご存知の方も多いかと思いますが、赤穂事件四十七士の仇討の話です。

芝居小屋が不況だったとき、これを上演すればたちまち大入りという人気演目。

「義経千本桜」「菅原伝授手習鑑」と並ぶ三大傑作のひとつとされています。
歌舞伎の中でも最も人気のある演目でもあります。

ではそんな忠臣蔵の見どころはどこにあるのでしょうか。

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忠臣蔵の演目ができた背景

最初にこの演目のできた背景についてご紹介しておきます。
お馴染みこの忠臣蔵は江戸時代に実際にあった赤穂事件を元に作られています。

そう、大石内蔵助はじめとする四十七人の浪士が吉良上野介に仇討するという史実です。

江戸中で大騒ぎになったこの事件をネタに、当時様々な物語ができました。
そのどれもが仇討と称した討ち入りがテーマとなっており、ゆくゆくは「忠臣蔵物」の集大成として本作「仮名手本忠臣蔵」が作られました。

赤穂事件を元にはしていますが、かなり脚色されているため、史実とはかなり異なる点が多いです。
また、江戸時代幕府絡みの事件をそのまま芝居にするのはタブーとされていたため、人形浄瑠璃や歌舞伎では吉良上野介も大石内蔵助もでてきません。

ただ名前を変えているだけで、設定は同じなので高師直が吉良に当たるなどすぐに分かります。
また、時代も江戸時代でなく室町時代と大きく設定を変えています。

しかしながら討ち入りの場面などは二つ巴の紋付きの太鼓など、江戸時代さながらの浪士の格好がクライマックスを彩ります。

全十一段からなる長編の狂言ですが、全編を通し狂言で演じられることはめったにありません。
今までも昼の部・夜の部の通し狂言で上演されたことはありますが、ほとんどの場合二段と十段は除かれます。

もちろん最大の見せ場は討ち入りの段ですが、昔、本当にその段しか上演されず、
それはそれであまりに唐突感もあり、あまり忠臣蔵を堪能したという実感はありませんでした。

一番多く上演されるのは七段・祇園一力茶屋の場です。

仮名手本忠臣蔵見どころ

繰り返しになりますが、これらをすべて上演されることはまずありませんが、ざっくりのあらすじと見どころを紹介しておきます。

【大序】鶴ヶ岡社頭兜改め

時代は江戸でなく、室町時代。
これは史実を作劇することが許されていなかったためです。

征夷大将軍足利尊氏の命で、鎌倉鶴岡八幡宮に新田義貞の兜を奉納することになった弟直義。
こんな数多くの兜の中から義貞の兜を見つけ出すのは無理!とちょっとしたごたごたを引き起こします。
その場を抑えたのが塩冶判官(えんやはんがん)。なんと彼の奥さん妻顔世御前(かおよごぜん)が兜を見つけ出します。

以前から彼女の美貌に惹かれていた足利家の重役高師直(こうのもろのう)は彼女を見つけるや迫ります。
嫌がる顔世御前に口説く高師直を見た桃井若狭之助(もものいわかさのすけ)が彼女を助けます。

これに逆上した高師直。若狭之助を罵り、侮辱し始めます。怒った若狭之助は刃傷に及ぼうとしますが、通りかかった塩冶判官がこれを止めます。

★見どころ★
見どころは「幕あけ前」。
定式幕の前に人形がちょこんと現れ、配役を述べます。口上人形と呼ばれる「役人替名」(やくにんかえな)
この演目が人形浄瑠璃から発展した経緯にあります。
また、幕が開いたあとも登場人物は人形に扮し、口上が終わると人間に戻ります。

この演出は『仮名手本忠臣蔵』にしかありません。

【二段目】桃井館力弥使者/松切り

若狭之助が高師直に屈辱を受けたことは若狭之助の家ではもちきり。
若狭之助は家老の加古川本蔵を呼び出し、明日登場したら師直を斬ると告げる。

この二段は現在ほとんど上演されることはありません。

【三段目】足利館門前進物/足利館松の間刃傷/足利館裏門

歌川国芳画【二段目】桃井館力弥使者/松切り

歌川国芳画 出典:WIKIMEDIA COMMONS

若狭之助を罪人にしないため、本蔵は足利の館で師直を待ち伏せ。
「なんとかこれで気をおさめてください」と多額の賄賂を渡します。

師直は、自分が悪かったと登城してきた若狭之助に謝ります。
拍子抜けした若狭之助は師直を斬る気もなくし、その場は収まりました。

そこへ塩冶判官が登城。
妻顔世御前の師直への拒絶の文を師直へ渡すと師直はたちまち逆上。

若狭之助へ謝る始末になった腹いせもあり(賄賂をうけとったのだから仕方のないことなのですが)、
今度はその怒りの矛先は塩冶判官へ向けられます。

あまりの罵倒に温和な塩冶判官も怒り沸騰。師直に斬りつけてしまいました。
加古川本蔵に背後から抱き止められ、殺傷にはいたりませんでしたが、殿中での刀傷沙汰は家は断絶、己は切腹という掟となっています。

★見どころ★
なんといっても本来の赤穂事件の再現のような展開。
忠臣蔵の要といってもいいこの刀傷沙汰。

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【四段目】扇ヶ谷塩冶判官切腹/扇ヶ谷表門城明渡し

歌川国直画 判官切腹の場

歌川国直画 判官切腹の場 出典:WIKIMEDIA COMMONS

判官は裁きを受け、切腹。
(もうおわかりですね。塩冶判官が浅野内匠頭にあたります
駆けつけた家老大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)に無念の想いを伝え、腹を切った刀を形見として託します。
「敵は高師直ただ一人」由良之助は、師直を討つ決意をします。(この人が大石内蔵助です)

★見どころ★
判官が無念の想いを家老の大星由良助に告げ、絶命する場はまさに最大のみどころ。この後の話の展開の起点とも言えます。
別名「通さん場」と呼ばれましたこの場。この段のみ上演開始以後は客席への出入りを禁じ、お客さんとはいえども遅刻してきても途中入場は許されなかったと言います。
(現在、劇場の対応がどうかは不明です)

【五段目】山崎街道鉄砲渡し/ 山崎街道二つ玉

元塩冶判官の家臣、勘平は主君の一大事に恋人との逢瀬によりかけつけられなかったことを苦に、一度は切腹を決めるも恋人に止められ、猟師となっていました。
その事件から数カ月後、元同僚の千崎弥五郎(せんざきやごろう)に再会し、判官の敵討計画を聞きます。
自分も武士だったことからその計画に参加したいものの、軍資金がありません。

それを知った勘平の妻は遊郭に入り、身を売った金50両を父与市兵衛に託します。
与市兵衛はその50両を持って勘平のところへ行く途中、山賊に襲われ殺されてしまいます。

そんなことがあったとは知らない勘平はイノシシを仕留めようと銃を二発放ったところ、それがその山賊に的中。
誤って人を撃ってしまったと、勘平は抱きかかえようとしますが、ふと懐のお金に手が触れ、そのままそのお金だけを持って逃げてしまいました。

★見どころ★
なんかとてもやりきれない、切ない展開に心苦しい場ではありますが、ここの勘平の言動が次の段への展開に納得できる下りとなっています。
実は殺されてしまった老人が誰なのかはこの段だけではわからず、次の六段目ですべて明らかになります。

【六段目】与市兵衛内勘平腹切

50両を持って帰った勘平は、妻が自分のために身売りをしていたことを知ります。
妻を連れて行こうとする遊女屋の話から、昨夜自分が誤って撃ってしまったのは義父与市兵衛だったのではないかと思ってしまいました。
妻は遊郭に連れていかれてしまいます。

それとすれ違いに猟師仲間が与市兵衛の死体を運んできました。
勘平の義母は勘平に「舅を殺しお金を奪った」と攻められ、自害をします。

そのとき元同僚の弥五郎が訪ね、50両は主君の敵討のためだと勘平の義母に説明します。
与市兵衛死体の傷を調べ、そこに刀傷があったことから勘平が殺したのではないと判明しましたが、勘平は息絶えてしまいます。

★見どころ★
歌舞伎らしい展開と言える見せ場です。
50両が勘平に渡ればなんでもない一場なのですが、そこに至るまで二人の命が奪われ、最後には50両を手にした勘平までもが亡くなってしまいます。
猟師になった勘平が最後は着替え、武士にもどり切腹するという、最後まで主君への忠義と家族への想いを描いた見事な演出がみどころです。

【七段目】祇園一力茶屋

歌川広重画 遊郭で飲む由良助

歌川広重画 遊郭で飲む由良助 出典:WIKIMEDIA COMMONS

京都祇園の一力茶屋。大星由良之助は豪快に毎晩のように呑み、騒いでいます。
はたして主君の敵討はどうしたのでしょうか?
主君の命日に精進料理ならぬタコや魚を食べる由良助。
周りの敵は「敵討の心はもはや由良助にはないのでは?」と疑い始めます。

ついには酔いつぶれて寝ている由良助のもとに力弥がやってきて、むっくと起き上がります。
力弥は顔世御前からの密書を渡します。

敵討するのではと睨んでいた元塩冶家の家老だった斧九太夫(おのくだゆう)は師直側に寝返り、由良之助に届けられた密書の盗み読もうと床下に隠れています。
隣の二階では遊女となった勘平の妻、おかるがやはり由良之助に届けられた密書を鏡越しに読もうと試みます。

それに気づいた由良之助。おかるを身請けすると言いだします。
実はこの身請けは口封じに殺すためと知ったおかるの兄、平右衛門。
「どうせ殺されるなら兄の手にかかって死んでくれ、敵討ちに参加するために兄に手柄を立てさせてくれ。」
よくわからない展開ですが、おかるは身を兄にゆだねようとします。
それを目撃した由良之助はその兄妹の想いを知り、敵討に平右衛門を参加させることを許します。

さらには床下に潜んでいた裏切り者の斧九太夫をおかるに殺させ、勘平の代わりに功を立てさせます。

★見どころ★
よく上演される一場。
一つの密書を3人が読む構図が画になります。
この場のみ上演されると、なぜ密書を必死に読もうとしているのか、なぜ兄が妹を殺すことで手柄になるのか。
なぜ由良之助が床下に潜んでいる斧九太夫を遊女おかるに殺させるのか、「?」だらけになるので、ある程度のストーリーを頭に入れておくことをおススメします。

【八段目】道行旅路の嫁入

加古川本蔵の娘小浪(こなみ)と継母の戸無瀬(となせ)が由良之助の元へ急ぎます。
理由は由良之助の息子、大星力弥との婚姻の約束も消えかかっていたから。

「道行旅路の嫁入」は近年の通し上演が七段目までしか出ないこともあり、ほとんど上演されることはありません。

【九段目】山科閑居

ようやく到着した戸無瀬と小浪は、出迎えた由良之助の妻おいしから、嫁入りを拒絶されます。
力弥を諦め、ほかの男へ嫁いてはとの戸無瀬の言葉に首を横に振る小浪。
二人はそれぞれの想いを胸に死ぬことを選びます。

娘を斬り、自分も死のうとし、戸無瀬が小浪に刃を向けたその時、虚無僧の吹く尺八が聞こえ手を止めます。
そこへ現れたおいし。
「主君塩冶判官が殿中で師直を討ち漏らしたのは本蔵が抱き留めたため。だから、嫁入りを許す代わりに本蔵の首をもらいたい。」
と告げます。
その言葉を聞いた虚無僧は天蓋をとると、その人は本蔵でした。
本蔵はおいしを踏みつけ、由良之助を罵ります。それをひそかに聞いていた力弥は本蔵を槍でひとつき。
その騒動に駆け付けた由良之助はわざと本蔵がさされたと知り、小浪の嫁入りを許します。
(ここのあたり、状況が複雑ですね。)
本蔵は死ぬ直前、師直邸の絵図面を由良之助に託しました。

この場は歌舞伎ではほとんど上演されることはありません。

【十段目】天河屋

師直邸へ討ち入りのための武器の調達を命じられたのが天河屋義平。
この討ち入りを漏らさないために、妻と離縁し、奉公人にも暇をだします。

「天河屋義平は男でござる」は名台詞で有名でが、この場も上演されることはほぼありません。

【十一段目】高家表門討入/ 高家奥庭泉水/高家炭部屋本懐/両国橋引揚

歌川広重画 討入の場

歌川広重画 出典:WIKIMEDIA COMMONS

とうとう討ち入り。
テレビなどでもお馴染みの場面です。

高家の門前に集合した塩冶浪人たちは、一人一人姓名を名乗り、由良之助の合図で屋敷の中へ。
炭を保管する小さな小屋に隠れていた師直を見つけ出し判官形見の短刀で、敵師直の首を取ります。

クライマックスはお馴染み討ちとった首をかかげ、両国橋をわたって主人塩冶判官の眠る泉岳寺へと向かうお馴染みのシーンで幕となります。

★見どころ★
もう忠臣蔵といえばこの場なので、見どころは全部と言ってもいいですね。
薄暗い雪の積もった舞台。浪士の激しい立ち回りが一層際立ちます。

「口上人形」など、演出的にも見どころ満載の「仮名手本忠臣蔵」。
歌舞伎一番の人気演目だけあって、見応えたっぷりです。

12月14日は討ち入りの日

「討ち入りの日」というとなんかおかしなことになりますが、この日赤穂浪士や吉良上野介にまつわる祭典が各所で行われます。
東京両国の元吉良邸跡の一角には今だ吉良をともらうための祭壇があり、12月14日は供養の教が読まれます。

歴史を振り返るきっかけにもなりますので、ぜひチェックしてみてください。
また、歌舞伎や文楽でこの「仮名手本忠臣蔵」が上演されることがあれば一度ぜひ観てみてください。
きっと通しで観たくなりますよ。

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