歌舞伎「夏祭浪花鑑」見どころとあらすじ

歌舞伎「夏祭浪花鑑」見どころとあらすじ

三代豊国作

歌舞伎大人気演目の「夏祭浪花鑑」(なつまつりなにわかがみ)。

度々上演される演目ですが、全体の物語のあらすじは意外と知らないもの。
楽し気な夏祭りの演題とはかけ離れた泥沼の人間模様。

舞台はエンターテインメントに富び、海外上演でも大反響だった演目。
ここで改めて知っておきたい夏祭浪花鑑のあらすじと見どころです。

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「夏祭浪花鑑」(なつまつりなにわかがみ)とは

全九段の浄瑠璃作品。並木千柳・三好松洛・竹田小出雲の作。
通称は「夏祭(なつまつり)」

その演目名通り夏には必ず上演されるほど大人気。
ただ、通しで上演されることはほとんどなく、三段目「住吉鳥居前」、六段目「釣船三婦内」、七段目「長町裏」が主に上演されます。

夏祭浪花鑑登場人物

主な登場人物のご紹介です。

団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)
大阪堺の魚屋。
団七から後に九郎兵衛と名のります。
三河屋義平次に拾われ魚屋になり、義平次の娘お梶を夫婦になります。
侠客(きょうかく)になりたい野望があり、その野望から人を殺めてしまうことに。

一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)
「一寸」はあだ名。
一度は喧嘩した団七と義兄弟の契りを交わします。

釣船の三婦(つりふねのさぶ)
老侠客で団七を何かと気にかけます。
耳にかけた数珠は、人との争いを絶つため。それでも悪党相手には容赦しない。

お梶(おかじ)
団七の女房で、三河屋義平次の娘。
玉島家に腰元奉公していたにもかかわらず団七と不義の仲に。結局玉島家からは追い出されます。

お辰(おたつ)
徳兵衛の女房。

玉島磯之丞(たましまいそのじょう)
玉島兵太夫の息子。堺の遊女琴浦と恋仲になり身請けします。

琴浦(ことうら)
堺の遊女。磯之丞に身請けされます。
佐賀右衛門に横恋慕されたことが原因で団七に舅殺しをさせてしまうことになります。

三河屋義平次(みかわやぎへいじ)
お梶の父で、宿無しだった団七の世話をし、魚売りにしました。
欲が強く、佐賀右衛門のために琴浦をさらったことから団七に殺されていまいます。

大鳥佐賀右衛門(おおとりさがえもん)
磯之丞の同じ家中で、磯之丞が身請けした琴浦を手に入れようと画策します。

玉島兵太夫(たましまひょうだゆう)
団七が魚屋として出入りしていた家の主人。泉州浜田の武士。

夏祭浪花鑑あらすじ

それではあらすじをおっていきます。
普段は滅多に上演されない場もありますが、ここをチェックすることにより演目の内容がさらに理解できます。

一段目:お鯛茶屋/二段目:玉島兵太夫内

泉州浜田藩の諸士頭、玉島兵太夫の息子の磯之丞。大阪の堺の遊女、琴浦と恋に落ちます。
何とか身請けし、夫婦になろうとしているところに佐賀右衛門が横恋慕しようと悪だくみ。何とか磯之丞を陥れようとします。

それを救おうとした堺の魚売り団七は大鳥佐賀右衛門の仲間と喧嘩し、牢屋に入れられてしまいました。

何とか団七を牢屋から出したい女房、お梶。磯之丞に家へ帰ってもらいたい玉島家のことを知り、以前玉島家に奉公していたこともあり、磯之丞に会いにきます。

なんとか玉島家に戻ってくれないかと説得しますが、当の磯之丞は琴浦を残し戻れないと言います。

そこへ数人の物乞いがやってきます。その中の一人徳兵衛が遊興のため乞食に落ちたという身の上話をはじめ、それを聞いた磯之丞は玉島家に戻る決心をしました。
実はこれはお梶の策略。

玉島家の主人、玉島兵太夫は息子磯之丞が帰ってきたことにより、団七を牢から出られるよう計らいます。

三段目:住吉鳥居前(鳥居前)

団七が玉島兵太夫の計らいで牢から出られることになり、お梶と幼い息子市松が侠客の釣船三婦、と住吉神社の鳥居まで迎えにやってきます。

お梶と市松が神社にお礼詣りをしている間、磯之丞が駕籠(かご)に乗ってやってきます。
この駕籠かきがやっかいで駕籠代のことで磯之丞にからみます。

それを見かねた三婦が磯之丞を救い、茶屋へ向かわせます。

そこへ髭の伸びた団七が役人に伴われて、縄を解かれます。
三婦が団七に声をかけ、新しい浴衣を渡し髪結床へと行かせます。しかし、うっかり下帯(ふんどし)を用意するのを忘れ、自分の赤い下帯をはずして床屋に渡します。(ここは笑いの場)

すっかり身なりを整えた団七が床屋から出てくると、磯之丞の恋人琴浦が佐賀右衛門にからまれているところに遭遇。団七は琴浦を助けます。佐賀右衛門の子分徳兵衛が現れ、団七に言いがかりをつけます。

ついに二人が争いを始めたところにお礼詣りを終えたお梶が止めに入ります。
団七がお梶の亭主と知った徳兵衛。団七も徳兵衛の妻お辰が玉島家の家臣だったことを知り、お互い浴衣の片袖を交換し、義兄弟の契りを交わします。

四段目:内本道具屋/五段目:安居の森(道行妹背の走書)

磯之丞は団七の世話で清七と名をかえ、道具屋へ奉公します。玉島家からは勘当されていました。
そんなおり、またもや娘のお中と恋仲に。このお中を横恋慕する先輩と団七の舅、義平次の策略にはまり殺人を犯してしまいます。

その身は徳兵衛と団七の助けにより三婦の家に琴浦とも匿われることになりました。

六段目:釣船三婦内

この日は高津神社の夏祭り。
三婦の家に徳兵衛の女房のお辰が訪ねます。
お辰は若く美しく、気立てもよい女性。夫徳兵衛より先に玉島へ帰ると挨拶にきました。三婦の妻のおつぎはお辰の人柄を見込み、いつ捕まるか分らない磯之丞を預かってくれないかと頼みます。二つ返事で快諾するお辰ですが、反対したのは三婦。若く美しいお辰と磯之丞に間違いがあったらと心配でならないと、告げます。

それを聞いたお辰。
直前までおつぎが魚を焼くのに使っていた真っ赤に焼けた鉄弓を顔に押し当て、顔に火傷を負います。

「これでもう私は傷物」とお辰その意地を見せます。

三婦はそのお辰の思いに何も言うことができず、磯之丞を預けます。

そこへ佐賀右衛門の手下が琴浦を連れ出そうとやってきます。
この悪党を追い払うため三婦が家を出たあと、三婦の家にはおつぎと琴浦が残ります。

そこへ団七の舅、義平次がやってきました。団七に頼まれたと偽の手紙をおつぎに見せます。すっかり信じたおつぎは琴浦を駕籠に乗せてしまい、義平次は琴浦を連れて帰ってしまいました。

すれ違いに団七がやってきて、義平次が佐賀右衛門の策略にはまり琴浦を連れて行ったと気づき、その後を追います。

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七段目:長町裏(泥場)

長町裏で義平次に追いついた団七。
なんとか琴浦を解放してほしいと懇願します。

しかし金に目のない義平次は琴浦を差し出せば佐賀右衛門から多額の報酬を受け取れると、団七の言葉に耳をかしません。

そこで団七はとっさに舅に背を向け、道に転がっていた小石を拾い懐中に押し込みます。
「入牢中に友人が頼母子講で三十両集めてくれ、ここにその金がある」と嘘をつきます。

とたんに態度の変わる義平次。
その小石を包んだ布と引き換えに琴浦を団七に差し出します。

団七は琴浦を逃がします。

その瞬間受け取ったのは金でなく石と分った義平次。「金はどこだ」と団七を責め立てます。
「そんな金はないと」団七がいうと、義平次は激怒。「義理とはいえ親をだますとは」と罵ります。

団七はグッとこらえますが、あまりの悪態に刀に手をかけます。
「斬れるものなら斬ってみろ」とさらに悪態をつく義平次。ついには雪駄で団七の額を殴ります。
額を切った団七。ついに刀を抜いてしまいます。

「さあ斬ってみろ」と挑発する義平次。
団七は刀を抜いたものの、耐えます。義平次はその刀につかみかかり、自分に刃を向けさらに挑発。
団七は刀を収めようと刀の取り合いになります。

やがて刀を取り合っているうち、団七は誤って義平次の肩を斬ってしまいます。
「親殺し!」と叫ぶ義平次。手が滑っただけだと誤る団七ですが、本当に親殺しの罪に問われると大罪となってしまいます。

何とか口をふさごうとしますが、義平次は黙りません。
肩からの出血が団七にもつくと、もうこれまでと団七はとどめをさしてしまいます。

遠くにはだんじり囃子が聞こえ、団七は義平次を池に捨てると人混みに逃げていきます。

八段目:田島町団七内(蚤取り)/九段目:玉島徳兵衛内

お辰に続き玉島に帰る徳兵衛が挨拶に団七の家にやってきます。
長町裏で拾った団七の雪駄の片方を見せ、義平次を殺したのは団七かと問います。

事実を確認したのち、その罪を自分が身代わりとなって引き受けると徳兵衛は申し出ますが団七は断ります。
当時、親殺しは一番の罪だったため、他人の自分が身代わりとなることを考えたのです。

しかし団七はかたくなに断ります。
やがて徳兵衛は「蚤をとった」と大声で叫び、団七に逃げろと促しますが団七は動きません。

仕方なく、徳兵衛は団七の妻のお梶に不義をしかけます。
三婦のはからいでお梶は団七と離縁となり、団七と義平次は親子ではなくなったため、罪が軽くなりました。

罪は軽くなったものの、罪人は罪人。団七を追った捕り手の乱入後徳兵衛は自分が団七に縄をかけると買って出て、屋根まで団七を追い詰めると逃亡資金だといって団七の首に金の入った袋をかけてやります。

やがて佐賀右衛門の悪事もばれ、磯之丞の勘当が解けます。
団七の刑は玉島兵太夫の計らいにより減刑が約束されました。

夏祭浪花鑑見どころ

通称「夏祭り」と呼ばれるこの演目は分りやすいストーリーと演出から大人気。
人間関係も歌舞伎演目にしてはシンプルです。

文楽でも歌舞伎でも上演され、少しストーリーの異なることもありますが、特に歌舞伎では団七の舅殺しの場面は泥を使い、死を直前にした義平次が泥まみれになるのは最大の見せ場。(ちなみに泥は本物の泥でなくうどん粉などの着色したものです)

このことから、七段目「長町裏」は「泥場」とも呼ばれます。

また、文楽にはなく歌舞伎にあるもので「見得」があります。
この演目では様々な見得が繰り広げられます。長町裏の殺し場で団七は十幾通りの見得。また、牢から出てきた団七と徳兵衛の争いをお梶が止める場面では芝居の看板を片手にもち二人の間に入ります。その三人の見得は歌舞伎の中でも有名なワンシーン。見事な構図が出来上がります。

そのほか、団七が牢からでて、髪結床から出てきてこざっぱりした姿で出てくるときに着ている浴衣。
衿から背にかけて首の周囲を紋や図柄を合わせて染めぬいてある、首抜の浴衣と言われるもので、多くは着ている役者の紋が染められています。こちらも演者によって異なるので要注目です。

また、前半は軽快なコミカルな場もあり、笑いに包まれる場面も多いです。

2002年平成中村座ではクライマックス捕手に追われる団七と徳兵衛が外の公園へ飛び出したり、渋谷のコクーン歌舞伎では舞台背景が開くや否やパトカーが飛び込んでくるといった大胆な演出も。

この演出はニューヨーク公演でも大反響。
演劇について辛口評価の新聞社も大絶賛だったと記憶しています。

ただ、それは亡き十八世中村勘三郎がなんとしても観客を楽しませたいという思いから、古典演目に串田和美とともに演出を加えたものですが、本歌舞伎でも見どころ満載の演目。

上演される際はぜひ劇場にお運びください。

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