歌舞伎十八番の内「毛抜き」。
実はあまり上演がないのですが、一度は観たい。
その奇想天外なストーリーが他の歌舞伎演目にはない面白さがあるから。
それはこの題名からも想像つきますよね。
どこかで上演が決まったら必見!
毛抜きのあらすじと見どころです。
毛抜きとは
歌舞伎十八番とは七代目市川團十郎が市川宗家のお家芸として「荒事」を選定した18の歌舞伎演目を言います。
毛抜きもそのひとつ。
本外題は「雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」。
この演目の第三幕を独立したものです。
雷神不動北山桜からは毛抜きのほか「鳴神」も独立した演目となっています。
奇想天外なストーリーが特徴の演目の一つですが、1850年を最後に一度は上演されることのない絶えてしまった演目でもあります。
復活したのは1900年に入ってから。脚本が少し書きかえられ型なども廃れてしまっていたため二代目市川左團次が一から作り直したと伝わります。
どこか近代の色が見える演出にはそんな過程があったんですね。
毛抜き主な登場人物
まずは主な登場人物からご紹介。
粂寺弾正(くめでらだんじょう)
主君文屋豊秀(ぶんやのとよひで)の家臣。色好みの面もある。
小野春道(おののはるみち)
小野小町の子孫で三代めにあたる。
小野春風(おののはるかぜ)
春道の子息。小野家に仕える腰元小磯(こいそ)と恋仲。
錦の前(にしきのまえ)
小野春道の息女。原因不明の病気にかかり、文屋豊秀との祝言を先のばしにしている状態。
秦民部(はたみんぶ)
小野家の家老。
秦秀太郎(はたひでたろう)
小野家に仕える、民部の弟。
八剣玄蕃(やつるぎげんば)
小野家の家老。小野家の乗っ取りを画策。
八剣数馬(やつるぎかずま)
玄蕃の子息。父とともに小野家乗っ取りを企んでいる。
巻絹(まきぎぬ)
小野家の腰元。
小原万兵衛 実は 石原瀬平(おはらのまんべえ じつは いしはらせへい)
小磯の兄の百姓と名のっていたが、正体は早雲王子の家来。
毛抜きあらすじ
歌人小野小町の子孫にあたる小野春道の館が舞台。
秦民部(はたみんぶ)が小野家の重宝「ことわりやの短冊」を紛失した責任を取って切腹しろと八剣玄蕃(やつるぎげんば)や八剣数馬(かずま)に迫られています。
主人小野春道と子の春風は切腹したところで短冊が出てくる訳ではないと止めます。
この短冊は干ばつにより民をすくうため雨乞いの歌をしたたためたもの。
神事に使う短冊で小野家伝来の短冊でした。
その短冊が何ものかに盗まれてしまったのです。
そんなごたごたの最中、小野家に文屋豊秀(ぶんやのとよひで)からの使者が来ます。
姫の奇病
文屋豊秀は小野家の姫錦の前と婚約したものの、姫が病気といってなかなか祝言をあげられずにいます。度々先延ばしにされ、しびれをきらし姫の病状を伺うべく家老の粂寺弾正を小野家に向かわせました。
玄蕃が「姫の病はまだ治らない。」と弾正を帰らせようとすると、「一目姫に会わせてほしい。」と弾正は懇願します。
結果目通りがかないます。
姿を見せた錦の前は薄衣を被っています。
その薄衣を玄蕃が取ると、姫の髪が逆立ちました。
お守りを縫い込んだ薄衣をかぶっているとおさまるものの、取った途端髪が逆立ってしまうと言います。
姫の病気とはまさにこのことでした。
驚く弾正。とにかく一度春道公と話がしたいと申し込みました。
毛抜きが踊る?!
春道公を待つ弾正。
しばらくすると煙草盆を持って秦秀太郎が入ってきます。
この秀太郎、なかなかの美少年で弾正は興味を持ちます。
「馬術の稽古」と称し、秀太郎の後ろから迫るとするりと逃げられてしまいました。
やれやれと持っていた毛抜きでひげを抜き始めます。
そこへ美女の腰元巻絹が姫の点てた茶を持って入ってきます。
この美女にも迫る弾正ですがこれも振られます。
放っておいた毛抜きを見ると毛抜きが立ち動いています。
抑えようとしてもなかなかつかまりません。
姫の髪といい、ココは呪われた屋敷かと思案する弾正。
ふと煙草を吸おうとしますが煙草は動いていないことに気づきます。
試しにこづか(小刀)を出すと、なんとこづかも動き出しました。
これには何かあると気づく弾正。
見つかった短冊
そんなとき、百姓の小原万兵衛(おはらのまんべえ)が小野家に駆け込み、小野家に奉公していた妹の小磯を殺されたと騒ぎます。
対応した玄蕃は訴えをあおるような態度をとります。
弾正は「妹を返す」といってその場で書いた手紙を万兵衛に渡し、こともあろうに万兵衛を斬り殺してしまいます。
これを見ていた玄蕃は弾正を非難しますが、弾正はこれは本物の万兵衛でないと男の懐から「ことわりや」の短冊を取り出しました。
弾正は本物の万兵衛は文屋家の領地にいて、妹が何者かに殺され、恋仲の春風からの手紙と預かっていた大切な品物を奪い取られたということを聞いていたとのこと。
小磯を殺し手紙と短冊を奪った犯人は、今弾正が殺めた偽の万兵衛だったということが分かります。
奇病の原因が判明
主人春道と錦の前が現れ、弾正に短冊を取り戻してくれたお礼を言います。
弾正はひとつ試したいことがあり、錦の前の薄衣を取りました。
途端、髪が逆立ちます。
弾正は姫のしている髪飾りに気づきます。
聞くところによると宮廷で流行している髪飾りで、作ってもらった銀の髪飾りとのこと。
弾正はこの髪飾りを引き抜くと、逆立っていた錦の前の髪はするりと垂れ、治りました。
やはり、と弾正は天井に槍を刺しました。すると大きな磁石を持った忍びの者が天井から落ちてきました。
驚く一同。
実はこの髪飾りは銀でなく鉄でできたため、この磁石に反応し髪が逆立っていたのでした。
「何の目的、誰に頼まれた」と弾正が問いただしていた矢先、近くにいた玄蕃がその忍びを斬り殺してしまいます。
犯人は誰?
弾正はこれより黒幕は玄蕃だと確信します。玄蕃は小野家を乗っ取ろうと婚姻をあげさせないよう、鉄の髪飾りを作らせていたのでした。
「短冊は出る、姫のご病気は治る、家は丸く収まってあなたは無事」と皮肉を言って一旦その場をまとめます。
まだ玄蕃の仕業と気づかない主人の春道は小野家の大事な刀を婚約成立の引出物として弾正に渡すよう玄蕃に預ける。玄蕃は受け取った刀を弾正に渡そうとしたところに弾正は「御祝儀に。」と玄蕃を斬ります。
一同、すべての黒幕は玄蕃だったと知るところとなりました。
毛抜きの見どころ
歌舞伎演目というのはファンターもあればミステリーもありますが、これほど奇抜な設定も珍しい。
しかも50センチもある毛抜きや磁石。
男からも女からも振られる弾正がこのトリックに気づき、黒幕までも成敗する話の展開は少し強引ながらも爽快。
毛抜きが動き出す場では弾正が刀や扇子、煙管を使って五つの変わった見得の形を見せます。
コミカルな小道具の動きふくめ、楽しい演目です。
毛抜きを見るのにおススメの席
弾正が最後颯爽と去る花道が見える席が断然おススメです。
勧進帳と同じ1階席か、2階席前列または東側。
以下の赤色のついた席が特におススメの席です。
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