歌舞伎「女殺油地獄」見どころとあらすじ

実話に基づいて近松門左衛門がかきあげたもので、1721年人形浄瑠璃で初めて上演されました。

実際の事件が元となっていることで話題にはなったものの、当時あまり人気がでなくしばらく上演されませんでした。
復活は明治になってから。映画やドラマにもなり、歌舞伎を観ない方もどこかで聞いたことのある話と思う方もいるかもしれません。

そんな女殺油地獄、今ではその見せ場をたっぷりと演じることが役者の腕の見せ所となっています。
遊び放題の油屋の息子と美しい人妻との間に起こった事件とは?

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女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)とは

冒頭で紹介した通り、実在の事件をもとに書かれた浄瑠璃です。

舞台は大阪。
商人にとってはせわしない決算期。(その時代節季といいました)
時代によって年末の1回だったり、2回、4回のこともあったそうで、この事件の時代はその5月5日のこととされています。実際の事件はその前日5月4日に起こったと伝わっています。

金にまつわる事件は昔も今も絶えません。
歌舞伎には多く取り上げられるネタです。

初演からしばらくは人気が出ず、途絶えていましたが明治になり近松門左衛門の残した浄瑠璃を研究されるうちに、名作と見直され、世相も変わったのかたちまち人気演目に。

今もひとたび上演されると、大入りとなるような人気演目です。

主な登場人物

主な登場人物のご紹介です。

河内屋与兵衛(かわちやよへえ)
大坂本天満町の油屋河内屋の次男で筋金入りの不良。気が短く、人とのいざこざも絶えない。
家督が母と再婚した徳兵衛が受け継ぐことになったことが面白くない。
仕事もせずに遊び三昧。結果、借金も抱えることに。

河内屋徳兵衛(かわちやとくべえ)
河内屋の当主。もとは先代の徳兵衛に仕えていた番頭で与兵衛の義父。
与兵衛には甘い。

お吉(おきち)
河内屋の同業、豊島屋の女房。三人の幼子をもつ美しい女性。

おさわ
与兵衛の実母。
先代の徳兵衛とは死別し、息子たちを育てるため番頭の徳兵衛と再婚する。

おかち
与兵衛の父違いの妹。
兄思いであるが、色々なもめごとに巻き込まれてしまう。

女殺油地獄のあらすじ

全三段から成る世話物。

初段:野崎観音

場所は大阪野崎参りの徳庵提。

今日は野崎参りでひと際賑わっています。

油商河内屋の道楽息子与兵衛は入れ込んでいた遊女の小菊を誘うがあっさり断られ、機嫌が悪い。
ふとしたところから参拝に来ていた田舎客と喧嘩になってしまいます。

たまたま通りかかった伯父で侍の森右衛門に手打ちになりそうになりますが、何とかその場を切り抜けました。
しかしながらその姿はボロボロ。

それを見かけた河内屋と同じ町内の同業豊島屋の女房、お吉は着物を洗ってあげると与兵衛に声かけます。

お吉は三人の幼子をもつ女房ですが、人柄良く顔なじみの与兵衛に何かと世話をやきます。

二段:河内屋

油屋河内屋先代の後を継いだ徳兵衛。
与兵衛の実母となったことで義父となりましたが、元々は河内の番頭。

与兵衛には甘い、それをいいことに与兵衛はわがまま三昧。
ついには遊び金欲しさに家の金に手を付ける始末。

自分が家督を継ぐため、妹を使って策をめぐらすも失敗。
実母のおさわにも手をあげるようになり、とうとう勘当されていまいます。

それでも義父徳兵衛は与兵衛を不憫に思い、お吉にお金を託し与兵衛に渡すよう頼みます。

節季(今でいう決算期)が来て、与兵衛には親の印判を不正利用にて借りた金の返済期限が迫っています。
なんとか金を作ろうとお吉に借りようと豊島屋へ行くと、義父と母が「与兵衛がきたら渡してほしい。」とお吉にお金を渡しているところを見てしまいます。

自分を不甲斐なく思った与兵衛は改心を決めるが、まずは借金を返済しなくてはなりません。

親が工面してくれたお金ではとうてい足りません。
もう背に腹は変えられない。

「不義になって貸してくだされ」

とお吉に借金を迫ります。

お吉は主人の不在中不義はできぬと断固として拒みます。

散々懇願した与兵衛はとうとうお吉に刃を向けます。
もみ合ううちに油の壺が倒れ、油まみれで逃げまわるお吉ですが、とうとう刺されてしまい息絶えます。

与兵衛は店のお金を奪い逃げていきました。

三段:豊島屋

お吉の三十五日の逮夜になにくわぬ顔をして豊島屋に訪れた与兵衛。
相変わらず遊びほうけています。

ふと天井でネズミが走る音。
どこからともなく紙がひらりと落ちてきます。

その紙には血痕がべったり。

与兵衛名入りの証文で、これが動かぬ証拠となり、お吉への悪事が暴かれることとなり、与兵衛は捕らえられました。

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女殺油地獄の見どころ

女殺油地獄最大の見せ場はなんといっても与兵衛がお吉を殺める場面。

「これ、あきらめて死んでくだされ。
 口で言えば人が聞く。心の中でお念仏。」

お吉を殺めるときの与兵衛の台詞です。

油で足を滑らせながらもみ合い、惨殺なシーンであるにもかかわらず、美的な演出に釘付けになります。

残酷なまでも二人が美しく画になる場面です。

「不義になって貸して下され」
という台詞は三人の子供を持つ美しい人妻と、馴染の放蕩息子。
二人の間になにか不義がありそうな独特の雰囲気も見ものです。

与兵衛にはまる役者は誰?

与兵衛のはまり役、ベテラン役者でいうと松本幸四郎・片岡仁左衛門・中村獅童といったところでしょうか。

助六の当たり役片岡仁左衛門はもうこういった色男&紐役は適役。
70歳をすぎた現在も若々しく色男を見事に演じ切ります。

松本幸四郎もどこか闇のある役ははまりますね。

これからイケメン息子市川染五郎がこの役を演じる機会があればぜひ観たいですね。

歌舞伎演目にしては登場人物の関係性が単純で、ストーリーも分かりやすい女殺油地獄。
歌舞伎初心者にも楽しめる演目のひとつです。

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