「勧進帳」は歌舞伎十八番のひとつで、特に人気の高い演目のひとつです。
能の「安宅」(あたか)という演目を元にした義経・弁慶が繰り広げる緊張感の中で描かれる人間模様に焦点を当てた作品。
一年のうちで必ず上演される勧進帳の魅力とみどころ、さらに楽しむためのポイントもご紹介。
勧進帳とは
歌舞伎十八番とは七代目市川團十郎が家芸として制定した十八の作品。
勧進帳もその中のひとつです。
江戸河原崎座で七世市川團十郎により1840年初演、九世團十郎がさらにブラッシュアップしたと言われ、今なお人気の演目です。
勧進帳は毎年上演回数も多く、そのためこの演目の長唄は歌舞伎ファンには馴染みの曲となっています。
能が始まりでもあるため、舞台もその名残が見えます。
「勧進帳」とは寺への寄付帳のこと。
これがこの物語の要になってきます。
主な登場人物は「源義経」とその家来「弁慶」、そして関所の関守「富樫」。
勧進帳では義経はわき役です。
弁慶と富樫の手に汗握る緊迫の駆け引きが繰り広げられます。
勧進帳あらすじと見どころ
さて、あらすじに沿って見どころをご紹介していきましょう。
序章
舞台は源平合戦が終わるころ。
兄頼朝に追われた義経は弁慶はじめとする最低限の共を連れ、山伏に扮して山を越えようとしています。
陸奥国の藤原一族を頼るためです。
義経は敵の平家を滅ぼすのに大きな活躍をしましたが、兄にも襲撃するのではと疑われ、弁慶の知恵で逃亡を企てます。
安宅の関
安宅の関(あたかのせき)にさしかかるころ、関所の関守「富樫」は目を光らせています。
山伏とは、寺の再建のための寄付集めを行っている修行僧のこと。
富樫は一目であやしいと義経一行をひきとめます。
ここから弁慶と富樫の緊迫のかけあいがスタート。
勧進帳の読み上げ
最初の見せ場。
一通りの質疑応答が交わされたのち。
「奈良の東大寺再建のため寄付を集めている」と言い張る弁慶に、富樫は「それなら勧進帳(寄付をしてくれた人の名前や寄付の目的などが書かれた記帳)を読みあげろ」と命じます。
弁慶は富樫の要求に動じることもなく、背負っていた適当な巻物をひとつ抜き出し、あたかも勧進帳のごとく堂々と白紙の巻物を読み上げます。
★見どころ★
すらすらと白紙の巻物を読み上げる弁慶。
「ホントか?」と巻物をのぞき見しようとする富樫。
ハッと気づいた弁慶は白紙とばれないよう必死で隠します。
観てる方がハラハラする緊迫の空気が流れる場面です。
富樫対弁慶
難なく見事に勧進帳を読み上げた弁慶ですが、まだ富樫の疑いは晴れません。
容赦なく弁慶に山伏なら当然知っているであろう事項を次々と問います。
「九字の真言」の奥義とは、さらに山伏が身につけているものについてなど。
それらの質疑に瞬時に応える弁慶。あっぱれです。
★見どころ★
たたみかけるような富樫の問いかけ。
二人のどんどん激しくなる掛け合いが見ものです。
通過許可からの・・・
富樫はさすがにこれは本物の山伏では、と判断し関所通過を許可します。
寄付品まで渡した富樫にある番卒が「山伏のそばにいるものが義経に似ている。」と耳打ちします。
すかさず弁慶たちを呼びとめます。
そこで弁慶が取った行動とは、「お前がもたついているから疑われるのだ。」と主君義経を殴ります。
本来なら「無礼もの!」となりしかるべき処罰をうけかねない行為。
これには富樫も驚きます。
富樫はすでに弁慶と義経だと気づいていますが、「そこまでして主君を守ろう。」とする弁慶の行動に心打たれます。
★見どころ★
疑いが晴れてホッとしたのもつかの間の緊迫感。
主君に手をあげてまでこの場を乗り越えようとする弁慶、義経一行と分かっていながら捕えられない富樫の葛藤。
緊迫した空気の中、様々な思いが交差する場。
延年の舞
一旦関を去った一行を富樫が追いかけてくる。
「捕まる?」と思いきや富樫は疑った詫びをしたいと宴席を設けます。
酔った振りをし、弁慶は一行を先に行くよう促します。
★見どころ★
緊迫の時間の後のちょっとした和みのひととき。
大の酒好きの弁慶は出された盃では小さすぎると大きい器になみなみと酒を要求。
その滑稽な飲みっぷりがクスッとさせます。
飛び六方
一行が花道よりはけ、幕引き。
弁慶ひとり幕外に残ります。
ここが勧進帳最大の見せ場。この演目ならではの「飛び六方」で花道を勢いよく弁慶が退場。
飛び六方は六つの方角、天・地・東・西・南・北へ手足を動かし、飛ぶようにステップを踏みながら駆け抜けること。
飛び六方を踏む前はたっぷりと間をとり、その瞬間を最大の見せ場にします。
二代目 松本 白鸚(十代目 松本幸四郎)が当たり役とも言われ、戦後最も弁慶を演じた歌舞伎役者と言われています。
この飛び六方は役者さんによって個性がでます。
ぜひ様々な役者さんの弁慶を見てお好みを見つけてください。
勧進帳を観るなら1階席
さて、この勧進帳。
話は単純で、基本長唄にのせて舞台はすすみます。
時間もさほど長くはありません。
ですが、最大の見どころ飛び六方はさっそうと花道をかけぬけます。
これが観れない席は面白さ半減。
必ず1階席。
できれば真ん中より後方がおススメ。
前の方の席では飛び六方で花道を駆け抜ける弁慶の後ろ姿しか見られません。
以下は歌舞伎座の1階席図。
図の色つけしているところが勧進帳観劇におススメの席です。
私なら1階2等席一番前(1階17列8~26番)を取ります!
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