歌舞伎「東海道四谷怪談」見どころとあらすじ

歌舞伎「東海道四谷怪談」見どころとあらすじ

豊原国周画

歌舞伎を見たこともない方も「四谷怪談」や「お岩さん」はどこかで聞いたことがあるかと思います。
もしかすると、歌舞伎演目で一番有名な作品かもしれません。

江戸時代から大人気の四谷怪談のあらすじとみどころをご紹介。

舞台もスペクタクルで見どころたっぷりの演目なのです。

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「東海道四谷怪談」(とうかいどうよつやかいだん)とは

四代目鶴屋南北作。
「仮名手本忠臣蔵」の外伝として描かれました。(今でいうスピンオフ作品)
初演は「忠臣蔵」と「四谷怪談」を交互に2日にわたって上演、最後は忠臣蔵の討ち入りで終了としたといいます。

江戸時代から大人気の演目で、ひとたび上演すれば大入りとなりました。

東海道四谷怪談登場人物

主な登場人物のご紹介です。

民谷伊右衛門(たみやいえもん)
忠臣蔵で高師直へ刃傷に及び切腹させられた塩冶半官の塩冶家に仕える武士でしたが、岩の父の四谷左門に悪事を暴かれ追放されます。さらに恋仲だった岩とも別れさせられ、ついには恨みから四谷左門を殺害。敵をとってやると岩と夫婦となります。
色男ながら欲深い性格。

四谷左門(よつやさもん)
もと塩冶家の家臣。お岩とお袖の父。
伊右衛門からお岩との復縁を懇願されるも許さなかったため恨みをかい、伊右衛門に殺されてしまいます。

お岩
四谷左門の娘。
伊右衛門と内縁関係になりますが、伊右衛門が塩冶家から追放されたため、身ごもりながら実家に連れ戻されます。
父四谷左門が誰かに殺害され、伊右衛門の敵を打つとのことから夫婦になりますが、出産を機に体調を崩し、これを機に近辺の歯車が狂い始めます。

直助権兵衛(なおすけごんべえ)
塩冶家の奥田将監に仕えてた武士だったが、薬売りに転身。
お岩の妹、お袖に惚れ何とか夫婦になろうとお袖の夫与茂七を殺し(実は別人を殺す)、夫の敵をうってやるとお袖と同居を始めます。実はお袖とは血のつながった兄妹。

お袖
お岩の妹。お岩とは血のつながりはない。
塩冶の家臣・佐藤与茂七と結婚するが、塩冶家断絶により与茂七は行方不明に。
その後父と夫の惨殺死体を見せられ、敵討ちを条件に直助権兵衛と同居を始めますが夫は実は生きていました。
突然お袖に前に現れた元夫と現夫にはさまれ、ついには死を選んでしまいます。

佐藤与茂七(さとうよもしち)
もと塩冶家の家臣。お岩の妹、お袖の夫。お家断絶の後、主君の敵討ちのため家を出てその時を待ちます。
一度家に戻った時、お袖と直助と三角関係となりますが事態は急変。お袖と直助が命を落とします。それを見届けると今度は伊右衛門を殺します。そして最後は忠臣蔵にあるとおり討入を果たします。

小仏小平(こぼとけこへい)
伊右衛門の家で内職の手伝いをする。
病気で足の不自由な塩冶浪士・小汐田又之丞をかくまっていますが生活は苦しく、病気を直すための民谷家に伝わる秘薬を盗もうとしてあえなく失敗。指を折られたうえ命まで奪われてしまいます。さらにお岩の不義の相手とされてしまう始末。今生の恨みつらみが重なり、幽霊となってお岩とともに幽霊となり、伊右衛門を殺します。

伊藤喜兵衛(いとうきへえ)
高家の家臣。伊右衛門に恋焦がれる孫娘お梅のために、体調を崩しているお岩に薬と偽り毒薬を飲ませます。伊右衛門をあの手この手で家中に取り込みますが、最後にはその伊右衛門に殺されてしまいます。

お弓
伊藤喜兵衛の娘でお梅の母。
父と娘を伊右衛門に殺され、敵を打つため奮闘しますが伊右衛門に堀に落とされてしまいます。

お梅
伊藤喜兵衛の孫娘。お岩の夫と知りながら伊右衛門に恋焦がれ。ついには病になってしまいます。
祖父の横暴な計らいで願いがかなって伊右衛門と夫婦となることに。しかしながら祝言の夜にお岩の亡霊に惑わされた伊右衛門に殺されてしまいます。

東海道四谷怪談あらすじ

【序章】
塩冶半官は高師直を刃傷に及び半官は切腹。

元塩冶家の家臣、四谷左門はお家は断絶し浪人の身。娘、お岩はやはり同じ塩冶家の家臣だった民谷伊右衛門の内縁の妻。お袖もやはり同じ家中の佐藤与茂七と結婚の約束をしています。

そんなおり、塩谷家の御用金を盗んだのは伊右衛門では、とにらんだ四谷左門はすでに伊右衛門の子を身ごもっているお岩を実家に連れ戻してしまいます。

浅草境内・地獄宿・浅草田圃の場

家に戻ったお岩ですが、家は貧しく生活が困窮。

浅草寺の境内では四谷左門の窮地を救った伊右衛門がお岩との復縁を懇願しますが、受け入れてもらえません。

一方、お岩の妹のお袖は家の家計のため、昼は楊枝屋、夜は浅草の売春宿・地獄宿で客をとる商売をしていました。

お袖に惚れれている塩冶に仕えた直助権兵衛がそこへ登場。
地獄宿でさんざんお袖をくどきますが、間一髪のところで与茂七がお袖を連れて帰ってしまいます。
直助は当然面白くない、どうにかしてこの恨みを晴らそうと考えます。

浅草裏田圃で直助は与茂七を殺害。(実は別人を殺してしまっていたのですが)
伊右衛門も同じ場所で四谷左門を殺してしました。

そこへ通りかかったのはお岩とお袖。
父と夫(らしき人)の死体を発見し、二人は泣き崩れます。

白々しく現れた伊右衛門と直助。
お岩とお袖に自分たちが敵を討ってやるからと、お岩とお袖を連れて帰ります。

伊右衛門浪宅・十万坪隠亡堀の場

お岩と復縁できた伊右衛門ですが、生活は苦しいばかり。
しかも子供を産んだお岩は産後体調を崩し、伊右衛門はだんだんと泣いてばかりいるわが子とお岩を疎ましく感じ始めていました。

そんな折、伊右衛門とお岩に仕える小仏小平は、病気で足の不自由な塩冶浪士・小汐田又之丞をかくまっていたのですが、金がなく薬も替えないため、民谷家に伝わる秘薬を盗もうとします。しかし伊右衛門に見つかり、拷問を受けた挙句に命を落としてしまいました。

一方伊右衛門の隣家の主、伊藤喜兵衛は孫娘のお梅が伊右衛門に夢中なのを知り、なんとかお岩と伊右衛門を離縁させられないか考えます。

そこで、お岩を毒薬で醜い姿に変えることを企てます。

ある日、伊藤喜兵衛に仕える乳母・お槇が血の巡りの良くなる薬だからきっと良くなるはずといってお岩に毒薬を渡します。
伊右衛門は礼を伝えに、伊藤邸へ。
その間、お岩はありがたいと薬を一気に服用。やがて苦しみ始めます。

伊藤宅では伊右衛門が喜兵衛の策略を告げられ、どうにかお梅と一緒になってくれないかと懇願されます。
もとよりお岩に愛想がつきていた伊右衛門は金目的にあっさり承諾。

帰宅すると喜兵衛の言う通り右目がひどく晴れ上がり、醜い顔になったお岩がいた。
金がいると蚊帳などを持ち去り、止めるお岩を置き去りにし家を出る伊右衛門。
途中あった宅悦に金を渡し、離縁の口実にするためお岩を口説くよう願う。渋々承諾した宅悦だったが、醜くなったお岩にひるむ。それでも口説き始めるとお岩は拒否。ついには宅悦はこの計画のすべてを白状してしまいます。

怒ったお岩。
伊藤喜兵衛と直接話をしようと身なりを整え始めます。

髪をすくとどんどん髪は抜け、さらに血がしたたり落ちます。
前髪部分がすっかりなくなってしまいます。

見かねた宅悦はもうやめるようお岩の手を止めようとします。
しかし二人はもめあいになり、不意の事故で宅悦は死んでしまいました。

お岩も毒がまわり、結局絶命してしまいます。

伊右衛門はお岩と小平の死体を戸板の表裏にうちつけ川に流しました。

ひと騒動終え、正式にお梅が嫁入りにきます。
その夜、床をともにする二人。しかし布団に横たわっていたのは死んだはずのお岩でした。

錯乱する伊右衛門。
首を切り、お岩を成仏させようとしますが討ったその首はお梅でした。

完全にパニックになる伊右衛門。

喜兵衛を起こしに行くとそこにはやはり殺したはずの小平が。
これも首を討つと、実は喜兵衛でした。

伊右衛門はお岩と小平の霊に苦しめられるのでした。

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砂村隠亡堀の場

喜兵衛とお梅が殺されたことで伊藤家は取りつぶしとなってしまいます。
喜兵衛の娘お弓はおまきと隠亡堀でひっそりと暮らし始めました。

おまきは不意に堀にはまり、命を落としてしまいます。

お弓は父とお梅の仇を討ちたいと思っていましたが反対に伊右衛門に堀へけり落されてしまいます。
これで伊藤家すべての人間が亡くなってしまいました。

その後やってきた権兵衛と改名した直助。今は鰻掻きをしています。
鰻掻きの網にかかったのはべっこうの櫛。実はお岩の母の形見なのですがこれを懐にしまいます。

やがてこの川で伊右衛門と直助が再開。

伊右衛門がひとりになると一枚の戸板が川から流れてきます。
どこかで見た戸板。

引き寄せるとお岩の死骸、裏返すと小平の死骸が現れ、驚いた伊右衛門は小平の死体を刺します。
するととたんに骸骨になってしまいました。

深川三角屋敷の場

お袖は夫の与茂七は殺されたと信じ込み、直助と暮らしています。
ある日、姉のお岩の死を知ったお袖は、伊右衛門を恨み直助に仇を取ってほしいと頼みます。
直助は本当の夫婦になることを条件にこれを承諾します。

夫婦の契りを結んだ夜、突然死んだと思っていた与茂七が訪ねてきました。

驚く直助とお袖。

二人の夫にはさまれたお袖。
灯りを消し、それぞれを手引きします。

与茂七が直助と思って刺した相手、さらに直助が与茂七と思い込んで刺した相手はどちらもお袖でした。
お袖は二人に自分を刺すよう手引きしていたのです。

そこでお袖がもっていた緒書きにより直助はお袖が生き別れた実の妹だと知ります。
直助は、お袖を刺した出刃包丁をそのまま自分の腹に刺し、自害しました。

蛇山庵室の場

蛇山の庵室に隠れ住む伊右衛門。
今は病気で床に伏せる日が続いています。

変わらず夢の中でもお岩の亡霊にうなされます。

お岩の霊が現れるのは夢の中だけではありません。

白い提灯がじりじりと焼けてくるとぽっかり穴があき、そこからお岩の霊が飛び出します。
伊右衛門の母、お熊の喉を食い切って殺します。

さらに高野家への仕官を臨んでいた伊右衛門のもとに、お熊の所持していた師直直筆の書き付けをもってきた秋山長兵衛をお岩の霊は絞め殺し、仏壇に引き込んでしまいます。

書き付けは突如現れたねずみによりボロボロにされ、ただの紙屑となってしまいました。

ふらふらになりながら死霊に刀を振り回す伊右衛門。

そこへ女房お袖の姉、お岩の仇討ちに駆け付けた与茂七。
お岩の霊は伊右衛門の刃を動けなくし、そこへ与茂七が切り込み伊右衛門は絶命しました。

東海道四谷怪談見どころ

四谷怪談が人気なのは、その話の面白さだけではありません。
歌舞伎の醍醐味の仕掛けが盛りだくさん。

【お岩の髪すき】
伊藤家に乗り込むため、身なりを整えようと髪を櫛で解き始めるお岩。
みるみる髪は抜けていき、その床には抜けた髪がどんどん山になっていきます。

下を向いて髪をすいていたお岩が顔をあげると見事に前髪がなくなり、血が滴った恐ろしい形相に。

髪をすいている間は、次の展開を効果的に見せるため静かな時間が流れる演出となっています。

【戸板返し】
お岩・小仏小平は同一の役者が演じます。(場合によって佐藤与茂七の三役)
見ものは砂村隠亡堀の場の戸板返し。

川から流れてきた戸板に打ち付けられているお岩。
ひっくり返すと小平が打ち付けられています。

この早変わりが見もの!
どうやっているの?と思うほど見事です。

当然、遺体とはいえ同じ役者が演じています。

【提灯抜け】
蛇山庵室の場で大きな白い提灯の中央部分が丸く焦げてきて穴が空いたかと想ったらするっとお岩の霊が飛び出してくる仕掛け。

ケルンという宙づりの技術と裏から「箸箱」と呼ばれるうつ伏せになったお岩をところてんのように押し出す仕掛けのあわせ技。
これも江戸時代からずっと引き継がれている舞台仕掛けとなっています。

【仏壇返し】
同じく蛇山庵室の場で伊右衛門を訪ねてきた秋山長兵衛をお岩が仏壇に引き込む仕掛け。
回転式の水車のような仕掛けになっていて、お岩が長兵衛をつかんだと同時に水車が回転する要領で裏手へぐるんと引き込むようになっています。

その他お岩の形相の変化など、大道具・小道具ともに様々な仕掛けが盛りだくさんで観るものを飽きさせません。

四代目鶴屋南北の作品ならではの人間の欲と哀れな愛がおりなす怪談話。
こんな大仕掛けがこの作品を一気に盛り上げました。

東海道四谷怪談こぼれ話

ここからは余談です。

東海道四谷怪談には様々な本題から外れたストーリーがあります。

お岩さんは実在の人物?

お岩さんはモデルとなった人物がいます。
田宮又左衛門の娘で旦那さんはやはり伊右衛門さんといったそうです。

ただ、やはり諸事情で離縁させられ、その事実をしったお岩さんは一旦は行方不明になったとか。
田宮家は変死者が次々と出たため、稲荷を建設したということです。

なぜこのお岩さんがこの怪談のモデルとなったのかは諸説ありますが、このお岩さんは公演中劇場のどこかで舞台を観ているということは今や定説になっています。

お岩さんゆかりの場所を必ず出演者、関係者でお岩さんゆかりの箇所を参拝に行かないと、必ず公演中なんらかの事故が起こると言われています。
出演者が急なケガをしたり、舞台セットが急に壊れたりと、江戸時代からこれまでに数えきれないほどのトラブルにあったとか。

お岩さんのゆかりの場所は以下。

  • 於岩稲荷田宮神社(東京四谷)
  • 於岩稲荷陽運寺(東京四谷)
  • 妙行寺(東京巣鴨)

公演成功祈願として一か所も欠くことなく、参拝するそうです。

初演の粋な番宣

江戸時代初演のときは提灯抜けの提灯をうまく宣伝に使ったそうです。

当時浅草の小道具小屋から芝居小屋守田屋まで、毎日白い提灯を運ばせていたそうです。
だんだんと江戸では「あの提灯はなんだ?」となり、「どうやら菊五郎が使うらしい」という噂に。

瞬く間に四谷怪談は毎日大入りとなったそうです。

ちなみにその提灯は実際舞台で使うものではなく、ただ宣伝用に作成したものだとか。

以上、話の内外興味深いことだらけの東海道四谷怪談。
通し狂言として上演されることは滅多にありませんが、一場一場見どころたっぷり

日本で一番有名な怪談といっても過言ではありません。
機会あればぜひご覧ください。

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