歌舞伎 「双蝶々曲輪日記」見どころとあらすじ

双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)は全九段からなる浄瑠璃です。
ですが、近年は二段目の「角力場」と八段目の「引窓」くらいしかほとんど上演されません。

なので、なかなか全体のストーリーがつかめないのですが、今回はその中間どころの展開も合わせて見どころなどご紹介。

歌舞伎演目でも人気の双蝶々曲輪日記。歌舞伎初心者の方にもおススメの演目です。

スポンサーリンク

双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)のあらすじ

この「ふたつちょうちょう」の外題は主人公力士の濡髪長五郎、素人相撲の放駒長吉のふたりの「ちょう」。

山崎屋与五郎は遊女吾妻と恋仲。また、南与兵衛は吾妻の姉女郎都と恋仲。
この二組のカップルに関わる力士濡髪長五郎と放駒長吉のからみから幕開けです。

通し狂言でないため、登場人物と相互関係を先に紹介しておきますね。

【登場人物】

濡髪長五郎(ぬれがみちょうごろう)
人気力士。山崎屋与五郎に恩があり、吾妻の身請けがうまくいくようとりはからう。
心あらず人を殺めてしまいますが、この事件をきっかけに様々な人情に触れることに。

放駒長吉(はなれごまちょうきち)
米屋の息子ながら力があるため、贔屓がつき濡髪と取り組むことに。
ただ、この勝利には裏があり、濡髪と喧嘩になります。しかしやがて濡髪と義兄弟に。

南与兵衛 後に 南方十次兵衛(なんよへえ のちに なんぽうじゅうじべえ)
濡髪の実母の現在の息子。郷代官。
命により罪人になった濡髪を追うことになってしまう。

お早(おはや)
与兵衛の妻。自分の夫が濡髪を追っていることを知り、義母の濡髪の母を気遣い与兵衛に見つからないようとりはからう。

お幸(おこう)
濡髪の実母。濡髪を養子にだしたあと、後郷代官の家に嫁ぐ。
与兵衛の母となったけれど血のつながりはない。

山崎屋与五郎(やまざきやよごろう)
濡髪を大の贔屓にしている大店の若旦那。
何と結婚していながら遊女の吾妻と恋仲になりかけおちしてしまう。
それが平岡郷左衛門にばれ、痛い目にあってしまいます。それを止めにはいった濡髪が平岡郷左衛門を殺めてしまい。。。

平岡郷左衛門(ひらおかごうざえもん)
放駒を贔屓にする侍。山崎屋与五郎と恋仲の吾妻を横恋慕しようと色々たくらむ。
濡髪に殺されてしまう。

ではあらすじを順をおって見ていきます。

スポンサーリンク

一段目 浮無瀬

ほとんど上演されることはありませんが、この後展開する話の序章となっています。

山崎屋与五郎は吾妻の身請けのために用意した手付け金300両をニセ金にすり替えられてしまいます。
それはやはり吾妻にご執心の平岡郷左衛門の仕業

さらに料亭浮無瀬で、与五郎に意趣晴らししようとする輩の企てを知った南与兵衛(なんよへい)は与五郎を助けます。

この南与兵衛はこの後の話の展開に大きく関わってきます。

二段目 角力場(すもうば)

双蝶々曲輪日記 角力場(すもうば)

双蝶々曲輪日記 角力場 歌川国貞画

度々上演されるこの段。

場所は大阪。
今日は人気力士の濡髪と放駒の取り組みがあります。

濡髪のご贔屓の山崎屋与五郎は応援にきます。

実は放駒は素人相撲の力士。当然濡髪が勝つと確信していますが、あっさり負けてしまいます。
大喜びの放駒。濡髪を応援していた山崎屋与五郎は悔しさ爆発。

濡髪はそんな与五郎をたしなめ、遊女吾妻の身請けは何とかうまくいくよう取り計らうからとたしなめます。

実はこれは濡髪の画策。
わざと負けて放駒贔屓の平岡郷左衛門に頼み込み吾妻から身を引いてもらうよう頼むというもの。

ですが放駒は濡髪の頼みを一蹴。

お互いにらみ合い、茶碗を握りしめます。
プロの力士の濡髪は握りくだけ割りますが放駒はそこまでの力がなく、悔しさまぎれに刀の柄で割ります。

先の取り組みが濡髪の采配によるものだったと裏付けられる場面です。

三段目 井筒屋

平岡郷左衛門は吾妻を、身請けしようとします。
また、吾妻の姉女郎、都の身請け話をめぐり、様々な人物が絡み合いますが、ここは上演
されないことにより詳細の話が分からないため割愛します。

四段目 米屋

双蝶々曲輪日記 米屋

双蝶々曲輪日記 米屋

力士の放駒の素行が悪く、相手を見つけては喧嘩し放題。
しかしこの放駒、姉のお関には弱い。

この日も姉の留守をはかり、店(米店)に濡髪を呼びだし立ち回りを始めます。

そこへ姉のお関が帰宅。
放駒(長吉)に盗人の疑いがあると噂が流れていると告げます。

放駒(長吉)は身に覚えがないときっぱり否定。
そのとき部屋のタンスの引き出しから紙入れ(札入れ)がでてきます。

お関は長吉にどこから手に入れたものかと問い詰めます。

知らないと言い張る長吉。
しかし普段の素行からにわかに信じられないと問い詰めるお関。

姉に弱い長吉はいたたまれずに自害しようとします。
それを止めたのは濡髪。

もう喧嘩はやめようと放駒(長吉)に聞かせ、放駒これに同意します。

喜んだのはお関。
実は放駒(長吉)の素行を正すために仕組んだのです。

これをきっかけに濡髪と放駒は兄弟分の契りを交わします

五段目 難波裏

この後のメインの見せ場「引窓」につながる場なのですが、この五段目もめったに上演されません。

吾妻と駆け落ちした与五郎が同じく吾妻を狙っている平岡郷左衛門に出くわしたと言う知らせを聞き、与五郎と吾妻を守ろうと濡髪は駆けつけます。
そこへいきなり平岡らに切りつけられる濡髪。
心ならずも、平岡らを殺してしまいます。自分も死のうとする濡髪ですが、駆け付けた放駒(長吉)に説得され逃げることに。そこへさらに悪党に襲われてしまい、勢いで彼らも殺してしまいます。やむなく大阪から逃亡をはかる濡髪ですが、お尋ねものとなってしまいました。

六段目 橋本

与五郎は行くところもなく、吾妻を連れてあろうことか本妻のお照のところへ帰ります。

ここからが複雑なのですが、お照の父橋本治部右衛門はこの二人をかくまいます。
しかし妻がいながらそんなことは許されないと怒ったのが与五郎の父。

二人は喧嘩になります。

この仲裁に入ったのが与五郎たちをのせた籠かき甚兵衛。実はこの甚兵衛は吾妻の実父。
そこで甚兵衛は与五郎を諦めるように娘の吾妻を説得します。

吾妻は死んで詫びようとしますがお照の父、橋本治部右衛門は金を工面して身請けしようと切りだします。
息子を罵倒しながらも内心助けたかった与五郎の父与次兵衛はこの身請けの金の工面を一切引き受けました。

与五郎の父・与次兵衛は息子の罪を引き受け頭を丸め、自身の名を与五郎に譲ります

七段目

父の名を受け継いだ与次兵衛(元与五郎)はある追手に捕まりそうになり、家から逃げ出します。
与次兵衛に追いついた放駒(長吉)と吾妻。落ち逃げている濡髪に会います。

濡髪は自首すると言いだすと、放駒(長吉)はまたしても逃げろと言い聞かせます。

八段目 引窓

双蝶々曲輪日記の最大の見せ場で、上演回数も一番多いのがこの段。
複雑な人間関係とそれぞれの相手を思う心情が切なく描かれるのですが、ほとんどこの前までの段が上演されないため、この場面をすべて理解できる方は少ないかと思います。

引窓とは暗い家屋で陽や月の灯りを家の中に取り込むために、縄で開閉する天井についた窓のことです。

場面は濡髪の実家。
ここでは濡髪の実母お幸が、再婚相手の息子夫婦と一緒に暮らしています。

濡髪は幼いころに養子に出されていました。

久しぶりの再会を喜ぶお幸でしたが、実は自分はお尋ね者の身で、どうしても捕まる前に母に会いたくて来たのだと告白する濡髪でした。
まずは二階でしばし休むよう濡髪を促すお幸。

そこへタイミング悪く、お幸の義理の息子南与兵衛(なんよへえ)が庄屋代官となり、父の南方十次兵衛(じゅじべい)の名も受け継いだとめでたい知らせを持って帰宅します。
しかも一緒に連れてきたのは、濡髪が殺した平岡郷左衛門の兄・平岡丹平と、三原有右衛門の弟・三原伝蔵の二人。

お幸の喜びもつかの間、義理の息子十次兵衛(元南与兵衛)がお上から指示されたのはお尋ね者濡髪を追うこと。
当然、濡髪は自分の実子であり、今偶然にも二階にいるなどとは言えません。

ただただ、この重なる偶然にとまどうお幸。

そんなお幸に十次兵衛は濡髪の人相書を見せます。

その時です。二階でそれらのやりとりを聞いていた濡髪はその人相書が自分のものであるかを確かめようと覗き込みます。

庭先の手水鉢に明るい月の光に照らされた濡髪の姿が映り込み、ハッとした十次兵衛の妻お早が引窓を閉じます。
お早は十次兵衛の妻でありながら、姑のお幸の不安を心配していました。

ですが時すでに遅し、十次兵衛は手水鉢に映り込んだ人物を確認していました。

もはやごまかせないと思ったお幸は、十次兵衛に自分の貯めたお金全部を渡し、その人相書を売ってほしいと懇願します。

十次兵衛はすべてをさとしました。
十次兵衛は探索の時間、方角などを口実に二階の濡髪のことには触れずに仕事に出かけます。

濡髪は十次兵衛の立場を思い、捕えらる覚悟を口にしますが、お幸とお早は逃げるよう説得します。

お幸は人相を変えるため濡髪の大前髪を剃り落としますが、父譲りの大きな右頬にあるほくろはかくしきれません。
いっそうのこと、このほくろも剃り落とそうと試みますが、やはりできません。

やがて窓の外から十次兵衛が銀の入った包みを濡髪にむけて投げつけます。
この勢いでほくろがとれたのです。

銀は十次兵衛が濡髪の逃亡資金として渡したものでした。

これで濡髪も逃げればと思うのですが、それができない濡髪。
「血の情愛より人の世の義理」つまりは義理ある子に手柄を立てさせるのが人の道とお幸を説得。

お幸は泣きながら引窓の縄を引いて濡髪を縛り十次兵衛に引き渡します。

でもまだ終わりません。
十次兵衛はその縄を切ってしまいます。その拍子に引窓が開くことによって月明かりがまた家に入り込みます。

「自分の役目は夜明けまで、今日は生き物を放す放生会」
つまりはこんなに明るいのだからもう夜は明け、自分が探索する時間ではなくなったということです。

濡髪は感謝し、逃げる道を選びました。

九段目

最後、濡髪はどうなったのでしょうか。

事情を知った河内の顔役、幻竹右衛門にかくまわれますが、いよいよ平岡丹平らが追ってくる知らせを聞きます。
幻竹右衛門は逃げるようすすめます。

ですが村のはずれで濡髪は平岡丹平らに出くわし、争います。
そこへ駆け付けたのが十次兵衛。

濡髪は十次兵衛にならと観念し、捕まり大阪に送られることとなりました。

双蝶々曲輪日記の見どころ

濡髪はじめ、登場人物ほとんどがお人よしで人情味あふれる話になっています。

「引窓」では、

  • 使命を追いながら母の気持ちをくんで濡髪を捕まえられない十次兵衛
  • 現在の息子に手柄を立てさせてやりたいと思いながら実子を指しだせないお幸
  • 夫を助けたいと思いつつ義理の母のお幸の心情をくみとって引窓を閉じたお早
  • 自分が捕まり十次兵衛に手柄を立てさせるべきと母をさとす濡髪

自分のことより人を思うという善人ばかり。

それぞれの複雑な心情が痛くもあり、温かくもありの見せ場です。

こんな人情がどの段でも垣間見れ、この話を作りあげています。

なかなか演じられる役者も限ってくると言われる、歌舞伎でも人気の高い世話物です。

濡髪とは享保のころに実在した力士がモデルとなっている説もあり、この力士が喧嘩の際水で濡らした紙を額にあて、それを刀除けにしたことから「濡れ紙」を呼ばれたことが元となっている説。

時代背景がよくあらわされ、その背景を知るとさらにこの物語に深みが増すので面白いです。

双蝶々曲輪日記、ぜひ一度観てみてください。
初心者でもわかりやすい内容となっています。

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました