歌舞伎「外郎売」見どころとあらすじ

歌舞伎「外郎売」見どころとあらすじ

「外郎売(ういろううり)」は歌舞伎十八番。
しばらく上演されなかった時期もありますが、先代の團十郎が復活させたと言います。

歌舞伎十八番とは七代目市川團十郎が成田屋のお家芸として選出した演目をいいます。
(余談ですが「おはこ」という言葉はここからきています。)

市川海老蔵改め十三代目 市川團十郎白猿襲名披露では同時襲名の新之助が務めます。
外郎売のあらすじと見どころをたっぷりご紹介。

スポンサーリンク

外郎売(ういろううり)あらすじ

元は「若緑勢曾我(わかみどりいきおいそが)」という演目がベースとなっています。
外郎とはお菓子のことではなく、中国から伝わった薬のこと。

主な登場人物

外郎売り(実は曽我五郎時致)
外郎売は仮の姿で、実は父の仇を打つため工藤祐経の命を狙っている曽我五郎時致という侍。

工藤佐衛門祐経(くどうさえもんすけつね)
曾我兄弟の仇敵。

小林朝比奈
工藤祐経の部下。曾我兄弟に仇討ちの時を待つよう助言する。

茶道珍斎(さどうちんさい)
早口言葉に挑戦しようとるけれどできずに悪戦苦闘。

貴甘坊
外郎を売り歩く子供。

あらすじ

工藤佐衛門祐経は源頼朝から命をうけ、富士の裾野で行われる巻狩りの総奉行を務めます。
その夜、舞鶴、梶原景時、梶原景高、茶道珍斎らで酒宴を行っていました。

そこへ貴甘坊を連れた外郎売がやってきます。

「小田原名物、ういろうはいらっしゃりませぬか?」

早口な外郎売の声に興味を持った工藤佐衛門祐経は外郎売りを呼びよせます。

実はこの外郎売、工藤佐衛門祐経に父を殺害された曽我五郎時致。
曽我兄弟の弟です。

父の仇を討つそのタイミングを外郎売に扮して見計らっているのです。

外郎売のその売り文句(言い立て)を聞かせてほしいとせがまれ、貴甘坊が外郎売の長台詞を述べます。

女性にもてたい工藤佐衛門祐経は外郎が効くのではと考えます。

外郎売は工藤佐衛門祐経に外郎を一粒飲ませて、早口の言い立てを言わせますが上手く言えません。
外郎売はおまじないと言って工藤佐衛門祐経につかみかかろうとしますが、周りに止められてしまいます。

さらにそこに曽我五郎時致の兄、曾我十郎祐成が現れ、ともに父の仇をとろうと祐経に襲い掛かろうとしますが周囲の防御に阻まれます。

いつか父の仇討ちを果たしたいという一心でここまでやってきた曽我の兄弟。
それでも果たせないと無念の思いを述べる兄弟の姿に、工藤佐衛門祐経は心打たれます。

この巻狩りの務めを果たしたら自分の身を曽我兄弟に預けると約束します。

実はこの外郎売は仇討ちの演目とされています。
それでも最大の見どころは仇討ちでなく貴甘坊の早口の長台詞を指します。

外郎売見どころ

外郎売の見どころは仇討ちのストーリー展開ではなく、なんといってもこの長台詞の言い立て。

歌舞伎ではかけ言葉などを重ねて長い台詞を述べることを「連ね(つらね)」と言います。

外郎売では子役がこの長台詞を述べるのでさらに観客の期待が高まり、無事言い終えたときは劇場中大拍手がわきます。

どれくらい長いのかというと、全部言い終えるのに4~5分ほどと言われています。

語りを生業にしている方が、滑舌をよくするためにひとつのトレーニングにも使われるというこの外郎売の連ね。

台詞は色々ネットなどにも掲載されているので興味ある方は調べてみてください。

大人でもなかなか言いまわせないこのセリフを子役が?と疑ってしまうほどの量です。

何を言ってる?外郎売のせりふの内容

こちらではその連ねの内容をご紹介します。
現代語にざっくりと訳したものです。

第一段 外郎売の紹介

「拙者親方と申すは、お立たち合あいの内うちに御存知のお方かたもござりましょうが、お江戸をたって二十里上方、相州小田、一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋や藤右衛門、只今は剃髪致して、円斎と名乗りまする。」

ではじまるこの一段は親方、外郎売の紹介をしています。

親方という人は江戸を発って約80キロ。相模の小田原の一色町を過ぎて青物町をさらに東海道を西に進まれますとある、店主虎屋藤右衛門がその人です。今は剃髪(出家)し「えんさい」と名乗っています。

その後、やっと外郎(薬)の説明に入ります。

第一段 外郎の由来

一年通して手に入るように売り歩いているこの薬。
外郎と名乗っていた外国人にいたっては帝へ参上するときでさえ自分の冠(烏帽子)の奥に隠し持ち、必要な時に1粒ずつ取り出して服用しました。

ついには天皇より「透頂香(とうちんこう)」という薬の名を賜ります。
その名を賜った薬はどんどん世間に広まり、ついには偽物まで出回るようになったほど。

小田原の灰俵など、さん俵など、炭俵などと店の看板に書かれていますがひらがなで「ういろう」としたのはこの親方の薬だけです。

もしこの場におられる方の中に熱海箱根などへ温泉療養または伊勢神宮へお参りに行く際は、間違ったお店に入らないようご注意ください。
京都方面へ向かうときは右側、東京方面へ向かうならば左側に店があり、それはきれいな建物のお店です。

屋根の破風に菊や桐の薹の家紋を使うことが許されているほど格式高い店なのです。

スポンサーリンク

第二段 薬の効能

店の自慢ばかりお話していますが、この薬をご存じない方は胡散臭いものと思われていることでしょう。

そこで今ここで一粒服用し、その効能をお見せしましょう。

まずは一粒舌の上に乗せ、呑み込むとなんというか胃・心・肺・肝臓がすっきりし、口の中も涼しくすっきり

魚や鶏やきのこや麺類の食い合わせ、そのほか万病に速攻効くまさに神業のごとしです。

その薬ですが特に効く不思議な効能が、よく舌が廻るようになりそれは銭ゴマも裸足で逃げてしまいます。
一旦舌が廻りだすと矢も盾もかなわないほどです。

第三段~五段 実践(早口)

そらそら、そらそら、舌が廻り出してきた!

「あわら」喉、「さ・た・ら・な」が舌、「か」が牙で「さ」は歯。「は・ま」の2音は唇にとよく動き口の動き軽やかに「あかさたなはまやらわ」、「をこそとのほもよろお」

ここから早口言葉になります。(原文)

一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、 盆まめ、盆ごめ、盆ごぼう、つみたで、つみまめ、つみさんしょう、書写山の社僧正(しゃそうじょう)、 粉米(こごめ)のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米のこなまがみ、儒子、緋儒子、儒子、儒珍(しゅっちん)、 親も嘉兵衛い、子も嘉兵衛、親かへい子かへい、子かへい親かへい、 ふる栗の木の古切口、雨がっぱか、番合羽か、貴様のきゃはんも皮脚絆(かわぎゃはん)、我等がきゃはんも皮脚絆、 しつかはしっかわ袴のしっぽころびを、三針はりながにちよとちょと縫うて、ぬうてちょとぶんだせ、 かはわら撫子、野石竹(のぜきちく)、のら如来(にょらい)、のら如来、三のら如来に六のら如来、 一寸先いっすんさきのお小仏に、おけつまづきやるきゃるな、細溝にどじょにょろり、京の生鱈、奈良なま学鰹まながつお、ちょと四五貫目、 お茶立ちゃたちょ、茶立ちょ、ちゃつちゃっと立ちょ茶立ちょ、青竹茶煎で、お茶ちゃと立ちゃ。

来くるは来るは、何が来る。高野の山のおこけら小僧、たぬき百匹、箸百ぜん、天目百ぱい、棒八百本。、武具、馬具、武具、馬具、三ぶぐばぐ、合わせて武具馬具六武具馬具、 菊、栗、菊栗、三菊栗、合せて菊栗、六菊栗、 麦ごみ麦ごみ、三麦ごみ、合せて麦ごみ六麦ごみ、 あのなげしの長なぎなたは、誰がなげしの長薙刀ぞ、 向こうのごまがらは、荏の胡麻がらか、真胡麻がらか、 あれこそほんの真胡麻がら、がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれこ法師、 ゆんべもこぼして又こぼした、たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、 たっぽだっぽ一丁いっちょうだこ、落ちたら煮てくを、煮ても焼いても喰われぬものは、五徳、 鉄きゅう、かな熊どうじに、石熊、石持、虎熊、虎きす、中にも、東寺の羅生門には茨城童子がうで栗五合つかんでおむしゃる、かの頼光らいこうのひざ元去さらず。

鮒、きんかん、椎茸、定めてごたんな、そば切きり、そうめん、うどんか、 愚鈍な小新発知こしんぼち、小棚の、小下(こした)の、小桶に、こ味噌が、こ有るぞ、 こ杓子、こもって、こすくって、こよこせ、おっと、がってんだ、 心得たんぼの、川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚を、走って行けば、やいとを摺りむく、 三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや、小磯の宿を七つおきして、 早天そうそう、相州小田原とうちんこう、隠れござらぬ貴賎群衆(きせんぐんじゅ)の、花のお江戸の花うゐいろう、 あれあの花を見て、お心を、おやはわらぎやという、産子うぶこ、這はう子こに至いたるまで、 此このうゐろうのご評判ひょうばん、ご存知ないとは申されまいまいつぶり、角だせ、棒だせ、 ぼうぼうまゆに、うす、杵きね、すりばちばちばちぐゎらぐゎらぐゎらと、 羽目をはずして今日お出いでの何茂様いづれもさまに、 上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っぱり、東方世界の薬の元締もとじめ、 薬師如来も照覧あれと、ホホ敬うやまって、うゐいろうは、いらっしゃりませぬか。

大変な量で、覚えたところで噛みそうな字面です。

今秋の新之助襲名が決まっている新團十郎(現海老蔵)の長男かんげん君がきっと七月大歌舞伎に続き立派に務めあげてくれるでしょう。

こうご期待!

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました