2020年3月大歌舞伎の公演が中止になり、家で過ごす人々のためにその通し狂言「新薄雪物語」を松竹が期間限定で配信されました。
その演目の見どころと動画ならではの面白さをご紹介。
また、今回動画を見逃した方も次回観るときの参考になればうれしいです。
通し狂言 新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)あらすじ
浄瑠璃3段時代物です。
人形浄瑠璃を歌舞伎の演目にしたもので、仮名草子「薄雪物語」が原作となっています。
「花見」
舞台は京都清水寺。
今も京都屈指の花見スポットです。
ある日ここに幸崎伊賀守の息女薄雪姫が花見に来ました。
このとき、腰元の籬(まがき)と園部兵衛の子息左衛門に仕える奴妻平(やっこつまへい)のとりもちにより、薄雪姫と左衛門は恋仲となります。
(若干、薄雪姫の強引さに左衛門が折れた感という感じはしますが、、)
後日再開の約束をした二人、薄雪姫は紙に「刀の絵」の下にと「心」と書き、「忍」という意を示し、忍んで逢いましょうという二人の合言葉の取り決めをします。
これが後日二人の運命を決める文となってしまいます。
ふと、そのとき左衛門はお寺に刀のことで呼ばれ、参ります。
薄雪姫とはここで一旦お別れ。
このとき、忍の書をうっかり腰かけに忘れてしまいます。
そののち、左衛門の奉納した刀に調伏のやすり目を入れ悪事をはたらく秋月大膳(あきづきだいぜん)。
幸崎・園部両家を失脚させるため、左衛門が奉納した刀に謀反の疑いをかけるため、刀鍛冶の団九郎をまきこんでの悪だくみです。
左衛門の共の刀鍛冶の来国行が現れそれに気づくと、そこへ現れた秋月大膳の手裏剣によって殺されてしまいます。
大膳の家臣が左衛門の忘れた薄雪姫のしたためた書を見つけ、大膳に手渡します。
大膳はこれを懐にしまいます。
やがて奴妻平が戻ってきて、国行を探します。
大膳の家臣は国行の遺体を見つけられては困ると思い、味方大勢を呼び妻平に襲い掛かります。
大膳方の奴たちを相手に妻平の大立廻りも見もの。
古風な様式美にあふれる一幕です。
「詮議」
謀反の疑いをかけられた左衛門と薄雪姫。
幸崎伊賀守邸において六波羅探題の執権、葛城民部と大膳の弟秋月大学、そして園部兵衛らが顔をそろえ、若い二人に謀反の是非を問いただします。
必死に無実を訴える左衛門。しかし左衛門の奉納した刀のやすり目をつきつけられ、それが動かぬ証拠とされてしまいます。
さらに薄雪姫が密会の合言葉とした「忍」と書かれた紙も、その企ての暗号ではと疑われる羽目に。
窮地に立たされた二人ですが、葛城民部はこれはどうやら秋月大膳の陰謀と知り、左衛門を薄雪姫の家、幸崎家へ。
さらに薄雪姫を左衛門の家、園部家へ預け詮議しようと提案。
まずはその場をしのぐこととなりました。
「合腹」
「新薄雪物語」最大の見せ場です。
薄雪姫を預かる園部兵衛。
二人は無実であり、これはそべて大膳の策略と確信しますがその証拠がありません。
しかしこのままでは薄雪姫は捕えられ、殺されてします。
ついに薄雪姫を家から出し、逃げるように促します。
そんな折り、幸崎伊賀守より使いが訪れました。
「左衛門が謀反を認めたため、奉納した刀で首を斬られた」
とのこと、さらにこの同じ刀で薄雪姫の首もはねろとの命という。
ただ刃先にちょこっとだけついた血をみて兵衛は疑問に思いました。
まもなく首桶を携えた伊賀守が来訪します。
それでは薄雪姫の首を打とうと答えた兵衛。
一度奥にひっこみ、やがて首桶を抱えて戻ってきます。
伊賀守と兵衛互いに首桶を開けると、そこに入っていたのは嘆願書。
「うっかり子を逃がしてしまい、その責任をとって腹を切ります。六波羅殿に虚偽の報告をします。
二人は、お互いの子を救うために、陰腹を切り、兵衛の妻梅の方の三人で傷みに耐えながら大笑いをします。
これが俗にいう「三人笑い」。この演目の最大の見せ場です。
さらに驚くことに腹を切ったあとに六波羅殿に出向き、「責任は自にある」と宣言します。
まさに身を犠牲にしてまでの反逆です。
話はこの後、六波羅殿に虚偽の報告をする伊賀守と兵衛の様子。
さらに「鍛冶屋」の場では、大膳に殺された鍛冶屋の国行の息子、国俊(くにとし)が五郎正宗(まさむね)に弟子入り。
極意を授けられた国俊はかくまわれていた薄雪姫の供をすることになります。
一方、左衛門の奉納した刀に細工した団九郎。正宗のこの秘伝の湯の温度を知りたいと手を漬けたところ、正宗に見つかり手を切られてしまいます。
これを機に、大膳の手下を大立ち回りで追い払います。
「新薄雪物語」の見どころ
歌舞伎ではよく子が親の犠牲になる物語が多いのですが、この演目は無実の罪をきせられた子のために親が一肌脱ぐ展開となっています。
そのため、合腹はこの演目ならではの見せ場となっています。
これは子を思う親の親子愛というだけではなく、確固たる子を信じる意の現れ。
その演技はかなり高度なものを要求されるため、「「新薄雪姫物語」は役者が揃わないとできない。」と昔から言われていました。
そのため、毎回豪華な役者が揃います。
2020年3月大歌舞伎では、片岡仁左衛門さん、中村吉右衛門さん、松本幸四郎さんといった大顔合わせとなる予定でした。
あらすじだけ読むとなんとも暗い悲劇のような印象ですが、実際の舞台を見ると随所にコミカルな場面や大胆なアクロバットな立ち回りが。
歌舞伎をこれまで観たことがないと言う方は、歌舞伎役者の身体能力の高さに驚くかもしれません。
「新薄雪物語」動画ならではの楽しみ方
舞台からは遠くて見えないだろう、薄雪姫の「忍」の文も動画ではしっかり見えます。
もちろん役者の表情、細かいしぐさも見逃せません。
動画視聴期間は短いですが、せっかくの機会ですので、ぜひ観てください。
観客がいない歌舞伎座で撮影されたもので、少し違和感はありますが、ツケは劇場に響き渡り普段拍手で聞こえない音も聞こえてきます。
観客の拍手も大向こうさんの「○○屋!」の掛け声もないので、少々物足りなさもありますが観る価値はあるかと思います。
特に普段、「歌舞伎観たいけど料金高いし、難しそうだし。」という方は、前知識を入れてぜひ観てください。
ストーリーがわかればそれなりに楽しめると思います。
ちなみに同じく無料動画配信が始まるオグリのあらすじと見どころはこちらをご覧ください。
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