通称「桜姫」と呼ばれるこの演目は現代版としてリメイクして上演されるほど見どころたっぷりの演目。
桜姫というタイトルを聞くと、美しいお姫様の優雅なお話と想像しがちですが、その内容はなかなかのスキャンダラスなストーリーとなっています。
それゆえ人気演目となっているのですが、こんな話が江戸時代に作られた?
とちょっと知りたい桜姫のあらすじと見どころです。
桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)とは
四世鶴屋南北の作品。
隅田川物と呼ばれる演目。
隅田川物とは、子をさらわれた吉田家の母親が京都から江戸までやってくるという伝説が元となっています。
その子の名をとって「梅若伝説」と言われます。
この桜姫もそのひとつで、主人公桜姫も吉田家のお姫様です。
お姫様が顔を知らない男と同じ彫り物?
女郎として客を取る?
など見どころたっぷりの人気演目です。
桜姫東文章あらすじ
序章
長谷寺の僧清玄は、稚児白菊丸は相思相愛。
今となっては同姓カップルだって一緒に暮らすことも別に普通ですが、この時代は死を選ぶしかなかったのでしょうか。
二人は心中を決心します。
お互いの名を記した起請代わりの香箱の蓋を白菊丸、本体を清玄が持ち、白菊丸は左手に蓋を握りしめて断崖から先に海に飛び込みます。
しかし一瞬躊躇した清玄は海に飛び込めずに、結局生き延びることとなってしまいます。
第一場 新清水の場
十七年後の話です。
吉田家の息女桜姫は美しい姫でしたが、生まれつき左手が開かず握ったままの状態という障害がありました。
その桜姫の父、少将と弟梅若丸が殺されてしまいます。
そんな中、ある夜に強盗が入り、桜姫はその強盗に犯され子をもうけます。
見も知らぬ男にそんな乱暴をされたにもかかわらず、桜姫はその男が忘れられなくなってしまいました。
暗闇でうっすら見えた、男の腕に掘られた桜に釣鐘の刺青をなんと自分の腕にも掘ってしまいます。
桜姫はもう身も心も落ちたと、出家を決意。
高僧となった清玄が十念を授けると桜姫の左手は開き、そこから清玄の名が記された香箱の蓋が現れました。
十七年前に清玄と心中をはかった白菊丸が持っていたものです。
そう、桜姫は白菊丸の生まれかわりだったのです。
第二場 桜谷草庵の場
桜姫のもとに悪五郎の使者として権助がやってきます。
目的は出家をとどまらせること。
権助は姫や腰元たちを笑わせ、二の腕の釣鐘の刺青を見せてしまいます。
これを見た桜姫は一変。
桜姫は周りのものをすべてその場から下がらせ、権助にすがり自分の想いを告げます。
権助は姫の想いを一旦は受け止めますが、僧の残月に見とがめられそのまま逃走してしまいました。
姫のもっていた香箱から姫を犯した相手は清玄と決めつけられますが、なぜか清玄は一切弁明せず女犯の免罪を認めました。清玄は桜姫こそ運命の相手と思っていたのです。
二幕目第一場 稲瀬川の場
不義の疑いで追放となった桜姫と清玄。
不安なかりを口にする桜姫に清玄は夫婦になろうと迫ります。
権助を思う姫は拒み続け、混乱の中逃げてしまいます。
二幕目第二場 三囲土手の場
不義の子、桜姫の赤子は結局清玄が預かることとなります。
赤子を抱きながら清玄は桜姫を探しますが、なかなか見つからず。
夜、二人は近くにいながらお互いを認められないまま別れます。
三幕目 岩淵庵室の場
桜姫付きの局(つぼね)長浦(ながうら)と清玄の弟子残月(ざんげつ)も同じく罪に追われています。
わびしい住まいをしているところへ清玄がたどり着きますが、さんざん桜姫を探しているうちに力もつき、病に倒れてしまいます。
長浦と残月は清玄の懐の金を狙います。
あおとかげの毒を清玄に浴びせ、首を絞めます。清玄は半面青あざとなり息絶えてしまいました。
墓穴掘りとなった権助は人買いに連れてこられたのが桜姫と再開します。
桜姫は喜びますが、権助は姫を女郎に売ろうと出かけます。
そんなとき雷雨となり落雷の衝撃で清玄が蘇生。
桜姫を見つけた清玄はただれた顔で姫に一緒に死のうと迫ります。
恐怖のあまり、逃げる桜姫。そんなとき清玄は自分で持ち出した出刃包丁で誤って喉を突いてしまい、本当に死んでしまいます。
そこへ戻ってきた権助の顔には清玄と同じ青あざが浮かんでいました。
四幕目 山の宿町権助住居の場
権助は大家となって裕福な暮らし。
そんなおり、自身の子とは知らずに桜姫の子をあずかることとなってしまいます。
一方、売られた桜姫はなかなか売れっ子でしたが、清玄の亡霊にとりつかれ大騒ぎとなり休業となってしまい権助のもとに戻ってきます。
寄合へ出かけた権助。一人となった桜姫のところにまたしても清玄の亡霊が現れます。
その亡霊が語ったのは清玄と権助は実の兄弟であることや、そばにいる赤子が生き別れた桜姫の子であること。
桜姫は驚きます。
真実を知った桜姫のもとにすっかり酔った権助が帰宅。
酔っ払いつつ、実は自分は盗賊であることや桜姫の父や弟を殺めたことなどを話してしまいます。
桜姫は権助と彼と不義の子、赤子を殺してしまいました。
大詰 三社祭礼の場
三社祭でにぎわう浅草寺雷門の前。
桜姫はお家再興をはたし、姫としての暮らしを取り戻します。
桜姫東文章見どころ
歌舞伎ファンなら誰もが納得の筋立て。
特に鶴屋南北お得意の「裏切り」「身内殺害」「幽霊」が題材。
いきなり家に飛び込んできた男に犯され、その肌が忘れられないという浮世離れ甚だしい姫の物語ですが、
実在モデルとなる人物がいたという説もあります。
そのモデルも江戸時代、姫君の位だったのですが娼婦として働いていましたがある日突然逮捕されてしまいます。そのショッキングな事件は江戸中大騒ぎになったといいます。
どこか桜姫と通じるものがあります。
なんか一度体を合わせた男を想うあまり、同じ刺青まで掘ってしまう姫物語としてみると、なんだかおめでたい芝居になってしまいますが、そんな背景があると知るとちょっと見方も変わるのではないでしょうか。
ちなみに歌舞伎では全く異なる筋立てを二作品以上まぜて新しい脚本を作ることを“ないまぜ”といいますが、桜姫もそのひとつです。
「清玄桜姫物」に「隅田川物」を加えたないまぜです。
余談ですが、桜姫の当たり役は玉三郎。
機会がありましたら必見です!
玉三郎の桜姫は純でこの上なく美しく、仁左衛門の権助は悪ながらやはり惹かれてしまうほどの色男でした。
お二方の年齢を考えると信じられないほど艶っぽさ!
うっとりでした。
コメント
とてもわかりやすくて面白かったです。どうもありがとうございました。
コメントありがとうございます。
少しでも歌舞伎をもっと身近にと、少しづつ演目のあらすじや見どころを
ご紹介させていただいています。
つたない表現で恐縮ですが、すこしでもご理解いただければ
大変うれしく思います。
桜姫は今月4月上段、6月に同じく玉三郎・仁左衛門のコンビで下段が
上演されます。
とても楽しみですね。