2019年歌舞伎座の「六月大歌舞伎」の夜の部は喜劇の三谷幸喜さんが演出。
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」。
最近は新作歌舞伎が熱いですね!
昨年上演された市川猿之助さんによる「ワンピース」も想像をはるかに超え、大好評を得ています。
三谷幸喜さんのファンでもあり、歌舞伎ファンでもある私は見逃せませんでした。
三谷かぶき「月光露針路日本」のみどころ
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」風雲児たち
は、みなもと太郎氏の「風雲児たち」漫画が原作。
歌舞伎の演目は漢字のみで当て字も多いのですが、これもそれにならった形。
ざっくりのあらすじです。
江戸時代、商船神昌丸にのった17名。江戸に向かう途中、嵐に巻き込まれ遭難してしまいます。
8か月もの間海を漂流し、着いたのはロシア領のアリューシャン列島アムチトカ島。
ここから日本へ帰るべくロシア内を点々とし、各地の役所に日本へ帰りたいと祈願して回ります。
その間、体調を崩した仲間が次々と命を落とし、最後は船頭の光太夫含む、5人に。
ロシアにたどり着き10年たったとき、やっと日本へ帰る支援を受けられることになりました。
喜びもつかの間、内2人はロシアに残ることを決心し。結局たった3人でロシアの船で日本へ帰ります。
もう少しで日本へ着くころ、一人はやはり船の中で亡くなってしまいます。
江戸時代、鎖国から船の作りも海外に比較できないほど質素だったため遭難し命を落とす船乗りが後をたちませんでした。
その中で本当にあった奇跡の物語。
口上の松也さんが劇場をひとつに
開演し早々スーツに黒ぶち眼鏡というビジネスマンスタイルで尾上松也さんが登場。
学校の先生の想定。
観客に「早く席に着きなさい、遅刻ですよ。」と一喝するや、観客にむかって質問を受け付けはじめます。
「今日のお昼ご飯は何でしたか?」という質問に
「本編とは全く関係ない質問だね、まあいいだろう。」とさらっと受け答え。
当然アドリブなのですが、なかなか役者さんではできない手腕です。
あっという間に劇場の空気をひとつにしました。
そしてストーリーの導入の説明・歴史的背景を語り始めます。
そして幕が落とされ、芝居が始まるという展開。
三谷幸喜さんらしい演出ですね。
他の芝居では、三谷さんご本人がこの役目を果たすこともありますね。
大抵は「携帯電話の電源切ってね」のお願いです。
ちなみに松也さんの登場は最初だけではなく、劇中にもどさくさにまぎれて登場しますので、これから観に行く方はぜひ見つけてください。
三谷エッセンス満載
三谷幸喜氏の演出は笑いなしには終わらない。
台詞はもちろん現代劇と同じなので、わかりやすく場内は常に笑いの渦。
個性の強い17人の船乗りがそれぞれ試練に立ち向かうさまをシビアかつコミカルに描いています。
珍しくマイクも入っていましたので音響も新鮮に聞こえました。(歌舞伎は普段生の声のみです)
馬や犬ぞりのシーンではもちろん、役者が着ぐるみを着て演じるのですが、これは歌舞伎本来のやり方。犬に扮した歌舞伎役者ならではの軽い身のこなしが見どころです。
聴きどころの音楽
歌舞伎は長唄や浄瑠璃という三味線などに合わせて歌われるのですが、当然新作は歌詞もこのために作られたもの。
最近新作の多いので、大変ですね。
今回も義太夫の「たどり着いたは、カカカカカ、カムチャツカ!」という歌詞に場内大うけ!
昔、やはり三谷幸喜さんの演出の人形浄瑠璃を観に行ったことがあるのですが、人形がクロールで泳ぐなど人形師さんも初めてのことでだったろうなと感じた記憶があります。
音楽などはやはり歌舞伎ならではのものなのが、さらに面白さを醸し出していました。
浄瑠璃にあんなに拍手喝さいだったのはあまり記憶がありませんw
今回のゲスト俳優は八嶋智人さん。
庄蔵/エカテリーナ 猿之助
新蔵 愛之助
口上 松也
キリル・ラックスマン 八嶋智人
アダム・ラックスマン 八嶋智人
マリアンナ 新悟
藤助 廣太郎
与惣松 種之助
磯吉 染五郎
勘太郎 弘太郎
藤蔵 鶴松
幾八 松之助
アレクサンドル・ベズボロトコ 寿猿
清七 宗之助
ヴィクトーリャ 宗之助
次郎兵衛 錦吾
小市 男女蔵
アグリッピーナ 高麗蔵
ソフィア・イワーノヴナ 竹三郎
九右衛門 彌十郎
三五郎/ポチョムキン 白鸚
私のうしろの座席に座っていた奥様3人組。
どうやら毎月歌舞伎座には来ているようで、なんとうらやましいと思っていたら、
「こんな新作もたまには面白くていいわね。」と満足そうでした。
三谷幸喜さんの手がけた歌舞伎は今回2作目。
正直、前回は個人的にイマイチだったので、今回もあまり期待していなかったのですが、三谷ワールド全快で最高でした。
少々本来の歌舞伎からはずれたところもありましたが、歌舞伎ならではの浄瑠璃や周り舞台、幕の使い方などはとても有効的に活かされ、見応えある舞台だったと思います。
ラストは本歌舞伎ではぜったいない、カーテンコール。
2回目のカーテンコールでは場内スタンディングオーベーション。
ちなみに最近は新作歌舞伎も多くなり、歌舞伎役者さんもカーテンコールに慣れてきたそうです。
少し前までは、歌舞伎役者さんはカーテンコールをどうしていいのか分からなかったらしく、演出家の野田秀樹氏が勘三郎さんとの対談の中で
「あれほどもたついたカーテンコールを、かつて見たことがない」
と笑っていました。
新作歌舞伎の魅力って?
スーパー歌舞伎はもう10年以上前から公演されてきました。
もちろん、賛否両論あるのですが、こうした取り組みが若い世代と伝統芸能の歌舞伎を結び付けることは確かです。
伝統芸能に現在の舞台演出が加わるとスゴイ科学変化が起こるんです!
それは歌舞伎にまったく興味ない人も、すっかりはまってしまうことからもわかりますね。
実際、これは海外公演でも大成功を収めています。
私も最初は渋谷のコクーンシアターで毎年行われていたコクーン歌舞伎が始まりです。
これは亡くなった18世勘三郎さんが若者に歌舞伎を観てもらいたいということから、串田和美さん演出で毎年夏に開催されていました。
その舞台は本歌舞伎の演目そのままに、演出のみを串田さんが手がけたもの。
(なので、正確には新作ではありませんね)
その華麗で迫力満点の演出は、誰もが魅了され、大人気となりチケット入手困難でした。
勘三郎さんが亡くなってからは不定期になりましたが、もし公演が決まってチケットが取れなかった場合、当日券をおススメします。
当日券はま数がないうえ、あまりいい席はありません。
ただし、かなり早い時間から並ばなくてはいけませんが、先頭もしくは2~3番目くらいなら、キャンセル席のよい席が取れます。
キャンセルは必ず出るとは限りませんが、私が行った限り、今まで出なかったことはないですね。
ちなみに他、新橋演舞場など松竹の劇場で行われる新作歌舞伎は松竹のホームページからのほうがチケット取りやすいです。
2020年三谷歌舞伎「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」がスクリーンに
早くも2020年「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」がシネマ歌舞伎で上演されます。
実際の公演を見逃した方必見!
みなもと太郎氏原作の「風雲児たち」を三谷幸喜がパワーあふれる舞台に仕上げています。
普段歌舞伎を観ない方も、歌舞伎しか観ない方も誰もが楽しめます。
2020年10月2日日本全国松竹にて公開です!
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