「文楽」ってご存知ですか?
いわゆる「人形浄瑠璃」です。
「あ~、昔からある人形劇ね。」
そうです。言ってみれば人形劇です。
しかし何が一般的な人形劇と違うのか。
世界最高峰の人形劇と称され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている文楽。
その文楽の魅力について迫ります。
文楽とは
人形浄瑠璃と昔は呼ばれていましたが今は「文楽」と呼ばれることが一般的になりました。
そもそも「文楽を一度も観たことがない」という方のためにどんなものなのか説明しておきますね。
文楽は唯一無二の三業構成
文楽は「太夫(たゆう)」・「人形遣い」・「三味線」の三業で成り立ちます。
三味線の伴奏に合わせ、太夫が語り、それに合わせて人形が動きます。
普通人形劇は人形使いが人形を操り、一体(一つのキャラクター)につき一人声優がつきます。
(声優がつく場合もありますし、人形を操る人が声も担当する場合もありますね。)
ですが文楽は太夫が語りからすべての登場人物(人形)の台詞を担います。
男も女も、子どもも老人も、すべてです。
さらに1人の太夫が一演目すべて務め上げることはありません。
一定の場面で太夫と三味線は入れ替わります。
当然、登場人物(人形)のそれぞれの声も変わることになります。
ですが「不自然」と思えないのが、文楽の不思議かもしれません。
(ただし太夫と三味線が替わるたびに「古今東西~」と黒子による太夫・三味線の紹介が入ります。個人的にこれは少々違和感を感じますが。)
人形は一体を3人の人形遣いが操ります。
これを「三人遣い」といいます。
しかも人形劇のように人形遣いは隠れていません。
人形遣いも客席からは丸見えです。
登場人物が3人いれば、人形遣いだけて9人の人形遣いもが舞台に上がることになります。
ごちゃごちゃして見えないのか?と思いますよね。
それは本当に最初のうちだけ。
自然と人形しか見えなくなってきます。
基本的に人形遣いは顔も隠した全身黒子状態ですが、主遣いのみ顔だしで演じられる場合もあります。
三味線は太夫の語りをつなぎ、時に感情を示す効果音の役割も果たします。
単なる伴奏でないところが、文楽の三味線の重要どころと言えます。
演目によって、三味線の旋律は決まっているそう。
登場人物すべての心情を太夫の語りに合わせ、心情を弾き分けます。
人形の秘密
一体動かすのになんで3人も?と思われるかもしれませんが、文楽の人形の動きは本当に細かく、指先に感情が現れるほど細かな動きができるようになっています。
3人の役割はそれぞれあって、
「主遣い(おもづかい)」と呼ばれる人がが人形の頭と右手を動かします。
主遣いはいわゆるその人形を動かすリーダー的な役割もあります。
「足遣い」は人形の足を動かし、劇中に出す足音も出します。
「左遣い」は人形の左手のみを動かします。
驚くことにこの3人が一緒に集まって練習することはほとんどないそうで、公演前の一度くらいだけとか。
しかもその3人もいつも同じ3人組でなく、各演目ごとにチームを結成されるそうで、誰と組んでもどの演目でも適宜対応できるという、まさに職人ワザ。
主遣いは左遣いに図という独特の合図をおくることにより連携をはかり、足遣いには自分の体の動きで人形の動きを伝えるそうです。
主遣いはつまり人形の動きすべてを作り出す重要なポジションで、人形遣いは大体足遣いを約10年、左遣いを約15年ほど経験したのち、主遣いになるといいます。
それだけの経験が必要ということなんですね。
人形は演目ごとに定番の頭に髪などセットされるそう。
銅と頭はつながっていないため、頭に着物を着付け、髪も結うのです。
中には「ガブ」と呼ばれる首があり、姫の顔から一転恐ろしい悪魔のような形相になるからくりの頭もあります。
一体が約1メートル30~50センチほど。
驚くほど細やかな動きが可能で、舞台では命が宿っているのではと思えるほど表現豊かに見えます。
昔の人形浄瑠璃の人形はここまで精度が高くありませんでしたが、1734年に口が開き、目が開閉できるようになり、やがて1736年には目が動き、眉も動くようになったとされています。
新作文楽、三谷幸喜氏作の「三谷文楽」では人形の動きだけで客席で笑いが起こるほどです。
人間以上に心情露わに表現されることに本当に感動します。
文楽の歴史
さてここからは文楽の歴史。
知っておくと伝統芸能の奥行きがもっと感じられます。
文楽のルーツはそもそも三つあります。
「語り物」「三味線」「人形」のそれぞれのルーツが合わさり、「人形浄瑠璃」となりました。
浄瑠璃とは13~16世紀の「平曲」、つまりひき語りがルーツです。
琵琶法師たちによる御伽草子や伝説などが大衆受けし、特に「浄瑠璃姫」という物語が大人気に。
そのうち姫が登場しない物語も人気がではじめ、これらを総称して「浄瑠璃」と呼ぶようになりました。
人形浄瑠璃はそこに人形が加わったことでその名がつきました。
ちなみに16世紀、楽器を沖縄の三線から三味線に変えたのも琵琶法師と言われています。
1700年代、大阪の人形浄瑠璃作家、近松門左衛門と竹本義太夫がタッグを組み、「竹本座」という芝居小屋で数々の演目が大当たりしていました。
「曽根崎心中」などは今も人気演目ですが、上演当時は心中ブーム?などの社会現象が沸き起こるほどでした。
また、芸風の違う豊竹座もかなり大阪では人気を博していたそうです。
1800年代に入り、淡路の植村文楽軒が文楽座を創業。
この芝居小屋が大当たりし、他の芝居小屋は資金難で消滅していきました。竹本座もそのあおりを受けて消えてしまいます。
「人形浄瑠璃といえば文楽座」という定説ができ、今では人形浄瑠璃でなく文楽と呼ぶことが一般的となりました。
ちなみに歌舞伎が江戸で盛んになったのに対し、文楽は大阪で反映した理由ですが、その要因の一つは江戸に火事が多かったため、人形などの資材の保存が難しかったと言われています。
文楽はどこで観れる?
ではその文楽、どこで観れるのか?
東京でいえば「国立劇場」、大阪の国立文楽劇場が本公演で他各地域に巡業でまわることがあります。
チケットは各劇場ほか、イープラスなどで販売されます。
公演情報は各劇場ほか文楽協会の公式サイトでも確認できます。
所在地:大阪府大阪市中央区日本橋1-12-10
アクセス:地下鉄(堺筋線・千日前線)「日本橋」駅、(近鉄奈良線)「近鉄日本橋」駅 下車
電話: 06-6212-2531(代表)
公式サイト:https://www.ntj.jac.go.jp/bunraku/
所在地:東京都千代田区隼町4-1
アクセス:地下鉄(東京メトロ半蔵門線)「半蔵門」駅、(東京メトロ有楽町線・南北線・半蔵門線)「永田町」駅、都バスなど
電話: 03-3265-7411(代表)
公式サイト:https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/
文楽初心者の方へ
一見台詞も太夫が担当する人形芝居ということで、なかなか親しみがわかないかもしれませんが、百聞は一見に如かず。
興味あれば一度足を運んでみてください。
国立劇場であれば太夫の台詞はすべて舞台横に表示されますし、台詞は要らないけど演目の解説が欲しい場合はイヤホンガイドが利用できます。
イヤホンガイドはシーンごとにその背景や人物の心情なども説明してくれるので上手く活用してください。
東京国立劇場では年に何回か文楽初心者用のレクチャー公演も行われています。
文楽の魅力
正直私も最初のころはこの「人形芝居」にさほど興味は湧きませんでした。
歌舞伎好きにも関わらずです。
ですが、観はじめると面白いのです。
近年、小説家の大島真寿美さんが「渦 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 魂結(たまむす)び」という著書で直木賞を受賞されましたが、これも文楽を題材にしたお話。
もっと文楽を身近にという著者の願いで書いたそうです。
同じく直木賞作家三浦しをんさんも「文楽観劇のド素人であった私が、いかにしてこのとんでもない芸能にはまっていったかの記録である」と書かれた「あやつられ文楽鑑賞」。
こういった本を読んでみてからでもいいかもしれませんね。
ちなみに妹背山婦女庭訓は歌舞伎でも人気演目ですが、歌舞伎と文楽の演目は共通しているものが多くあります。
それは歌舞伎の演目が人形浄瑠璃から演目として発展していった歴史もあるからです。
歌舞伎の演目で「近松門左衛門作」となっているものはそのほとんどが「浄瑠璃」の台本として書かれたものを歌舞伎用に直されたものです。
文楽と歌舞伎とではファン層が異なると言います。
「歌舞伎苦手」と言う方ももしかすると文楽なら楽しめるかもしれません。
人形が人形に見えなくなる不思議な人形芝居。
人形劇最高峰と呼ばれる所以かもしれません。
なにより歌舞伎よりチケット代は安いのも魅力ですし、「できれば着物で」というような定説もありません。
気軽に楽しめる日本の伝統芸能文楽、一度実際の舞台を観てみませんか。
イメージがなかなかつかめない方はこちらもご覧ください。
コメント