能は言わずもがな日本代表の伝統芸能です。
歌舞伎とは異なり、エンターテイメントというより昔は神事に近かった芸能です。
大名も能を舞いました。
日本人として一度は観たい、でもやはり難しそう。
そんなあなたに(私も含め)もっと能を楽しむための演目選びと知っておくべき情報をまとめました。
一緒に初めの一歩を踏み出しませんか。
能とは
前回、能と狂言の違いや演目は大きく「神」「男」「女」「狂」「鬼」という5つのジャンルがあることをお伝えしましたが、それはそんなに重要なことではありません。
動きは最大限にそぎ落とされシンプル。
最小限の動きの舞と音楽、そこに究極の優美さがあります。
あらかじめ知っておきたいこと
最低限抑えておきたいポイントは能というものがどういった構造になっているか。
役割
主役の「シテ」、相手役の「ワキ」、シテの助演者「ツレ」とワキの助演者「ワキツレ」。
歌舞伎と異なり、出演者が少ないので誰がどの役割なのかはわかりやすいと思います。
囃子方(はやしかた)とは音楽担当。
演者と同じ舞台にあがります。
笛(能管)、小鼓、大鼓(大皮)、太鼓の4種類の楽器からなっていて、そこに地謡(じうたい)という謡い手が入ります。
最初は演目を選ぶ
能の演目のストーリーはさほど難しくないです。
ただ、能という型を通して理解するのが難しいのです。
初心者におススメの演目のあらすじと見どころをご紹介。
ぜひ予備知識を蓄えて実際の観劇に臨んでください。
土蜘蛛(つちぐも)
源頼光(みなもとのらいこう)が侍臣(じしん)を従えて登場するとこから物語は始まります。
実は頼光は病床にあります。(普通の舞台とは違って寝ているわけではないので、病床とわからないのが能の難しさのひとつでもあるのですが)
頼光の家中の胡蝶という女性が役所の長官に調合してもらったという薬を持ってきます。
続く病にすっかり弱気になっている頼光を胡蝶が励まします。
場は変わって、一人の法師が登場。
言葉をかけながらひたひたと頼光に近づきます。
頼光は何かおかしいとおもったとき、法師は蜘蛛の糸を頼光に投げます。実は蜘蛛の妖怪だったのです。
頼光は源家相伝の名刀、膝丸(ひざまる)で蜘蛛の糸を切り、蜘蛛の妖怪にも切りかかりますが逃げられてしまいました。
名刀膝丸を「蜘蛛切(くもきり)」と名を改め、蜘蛛の化け物を成敗するよう頼光は侍臣独武者(ひとりむしゃ)に命じます。
独武者は頼光が負わせた傷から落ちた血痕をたどってその住処をつきとめ、仲間と妖怪を成敗しました。
和紙でつくられた蜘蛛の糸を投げる場面など、能の演目の中ではスペクタクルな演出がみどころ。
白い蜘蛛の糸が宙に舞う様子は、ショー的要素が強く、見た目にも華やかです。
舎利(しゃり)
この物語では「前シテ」と「後シテ」とシテが二人います。
旅の僧が出雲から京都泉涌寺を訪れ仏舎利を拝んでいるところへ前シテの里の男が現れます。
舎利とは釈迦しゃかの遺物でこの日開帳の日だったのです。
二人でこの貴重な宝物を拝んでいると、突然男の形相が変わり、鬼に変わります。
その男は釈迦入滅の折にその遺骨を奪って逃げた、足疾鬼の執心だったのです。
鬼の姿になった男は舎利を奪い去ってしまいました。
物音に駆け付けた寺のものは、その昔やはり釈迦が亡くなる時にこの舎利が足疾鬼によって奪われたと語ります。その舎利は韋駄天によって取り戻され、ここ泉涌寺に納まれていました。
今回もまた、韋駄天が現れ無事舎利を取り戻します。
旅の僧が「前シテ」、足疾鬼が「後シテ」となります。
舎利とは、釈迦しゃかの遺骨を意味します。
能では、舎利は舎利塔の作り物(舞台装置)の上に載っている宝珠(ほうじゅ)で表されます。
ストーリーを知ったうえで見ると、能ならではの演出が少しは分るかと思います。
道明寺(どうみょうじ)
歌舞伎好きな方はご存じの「京鹿子娘道成寺」の元となった演目で、物語は同じです。
紀伊の国の道成寺の釣り鐘の再興にあたり、この日供養祭が行われることになりました。
住職は寺の者たちにこの日は女人は絶対入れないよう、強く言います。
そんな中、一人の美しい女性が寺を訪ねて来て、鐘の供養に舞を舞いたいと言います。
断る寺男に能力を使い入り込み、舞を舞います。
すると鐘を落とし、その中に入ってしまいました。
この女は実は昔、恋した山伏に裏切られたと知り毒蛇となって道明寺の釣鐘に隠れた山伏を鐘ごと焼き殺してしまった化身。
釣鐘が再び上がると、蛇の姿となった女が現れます。
最近、テレビドラマでも紹介された演目。
歌舞伎は華やかな舞台ですが能は静かに流れます。
見せ場はなんといっても女が落ちてくる釣り鐘に入る瞬間。
シテの入るタイミングと鐘を落とすタイミングがずれると、シテは鐘の下敷きになってしまいます。
この釣鐘、実際かなり重いそうで、一歩間違えば命の危険もあるほど。
鐘を落とす人は鐘後見といい、ベテランにしかできないとされています。
釣鐘が落ちる前の前ではシテと小鼓だけの緊張した空気が15分以上続きます。
静かに、しかしながらその時を刻々と待つ、静の見せ場も見どころのひとつです。
(歌舞伎では女形が衣装早替えしながら優美に踊る、華やかな場面となります)
鉄輪(かなわ)
これもは「前シテ」と「後シテ」とシテが二人います。
貴船神社の社人が悪夢を語るところから始まります。
丑の刻に訪れる女に霊夢をお伝えせよというお告げがあったといいます。
果たしてその女は現れました。
その女は自分を捨て、浮気相手と一緒になった夫が報いを受けるよう遠い道のりを幾度と参拝にきていたのです。
社人は女に夢のお告げを伝えます。
「もう願いはかないました。鬼になりたいのであれば、赤い衣を裁って身に着け顔も赤く塗り、髪には鉄輪を戴き三つの足に火を灯け、その怒りを示せばたちまち鬼神になります。」
と。
女は人違いといいはりますが、家に帰りそのお告げに従いました。
すると離れて暮らす元夫は毎晩悪夢にうなされるようになりました。
陰陽師にみてもらったところ、女の恨みによるもので今夜あたり命が奪われると言われます。
陰陽師の祈祷により、鬼となった女の力は消えていき、男は命拾いをしました。
丑の刻参りの女が「前シテ」、鬼女が「後シテ」。
物語上は同一人物ではありますが、演者が異なるため配役も分けられています。
このほか源氏物語の一話を題材にした「葵上」や天女の羽衣でおなじみ「羽衣」などが初心者向けの演目としてあげられています。
調べると動画などでも一部鑑賞できますので、ぜひチェックしてみてください。
削ぎ落とされた美しさが能にはあります。華やかさだけではない卓越した演出を楽しんでください。
チケットの取り方
能の公演はだいたい一日一公演。公演ごとに席の種類や料金が変わります。
能にはいくつかの流派があります。
観世会主催の公演(主に千駄ヶ谷能楽堂・GINZA SIX)のチケットはKANZE.netで予約できます。
コンビニでの発券となります。
会員登録なしても購入できます。
演目は各能楽堂のサイトでご確認ください。
> KANZE.netでのご予約
電話でご予約は観世能楽堂事務所(03-6274-6579)で予約します。
郵便振替で入金となります。
イープラスなどネットサービス
イープラスでは全国の能・狂言チケットが購入できます。
全国能楽公演スケジュールはこちらでもチェックできます。
繰り返しになりますが、能のストーリーはとてもシンプル。
そして演出も究極までそぎ落とされているため、なかなかその理解が困難です。
この世のものでないことが題材だったりするので、それもなかなか理解しがたいですが世間を騒がせたアニメも鬼退治が題材。世界から注目されている日本の伝統芸能にちょっと触れてみる機会をあえて作ってみるのもいいですね。
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