浴衣の種類が意外と多いことは以前の記事でご紹介しました。
その中でも今回ご紹介したいのが「長板中形(ながいたちゅうがた)」の浴衣。
その染め方の技術は奇人の技!
「そんなことができるの?」
きっと誰もがそう思うはず。
職人の技を極めたイッピンです。
夏着物としても品よく着こなしたい、一枚は欲しくなる長板中形の浴衣の魅力と着こなしのご紹介です。
長板中形とは
「長板本染中形」が正式名称ですが、一般的には「長板中形」や「長板中形本藍染」などと言われています。
藍一色の型染めです。
長板中形の驚くべき染めの手法は布の表裏両面に一寸の狂いなく型を合わせ染め上げます。
そのため、藍に染まっていない白地部分がキレイに抜けます。
江戸時代から続く技法ですが技術の習得が難しく、これを染められる職人さんも少なくなったことから近年は大変貴重な浴衣となっています。
1.地張り
三間半(約6.5メートル)のモミの木の一枚板に真っ白な浴衣地を貼り付けます。
ここで布がよれたりすると両面模様が合わなくなります。
2.型づけ
40センチの型紙をずらしながら継ぎ目がでないように糊をおいていきます。
両面糊づけするため、透けてみえるよう糊に色づけしています。(これは最後水洗いすると落ちるもの)
3.乾燥
片面すべての型づけが完了したら一旦板につけたまま干します。
4.裏側の型づけ
乾いたら板から布をはがし、もう一面を上にしてまた板に貼り付け、型づけします。
色をつけた糊が透けて見えるのをたよりに、細かい型紙の模様一寸の狂いなく糊をおいていきます。ここがまさに匠の技!ここで型の模様がずれると藍で染めた時に図柄がぼやける。
濃く見えているところが両面糊がのっているところ。
5.豆入れ(ごいれ)
藍が定着しやすいよう、豆の絞り汁に藍を混ぜたものを刷毛で両面塗ります。
定着するまで1週間ほどおきます。
6.藍染め
いよいよ藍染め。
藍の入った壺に生地を浸します。
7.乾燥
藍は最初草色ですが、空気に触れ酸化すると青に変色します。
8.水元
型づけした糊を水で洗い流します。
すごい工程ですね。
1枚の反物ができるまでに2週間はかかると言われています。
長板中形の歴史
長板中形の浴衣が作り始められたのは江戸時代の江戸と言われています。
小紋柄よりやや柄が大きいということで中形となったそうですが、実際のところその細かさは小紋なみです。
裏表なぜ染めるのかというと、これは浴衣好きの江戸っ子の声から職人が腕を磨きあげたとも言われています。
江戸っ子は意外とおしゃれ。夏場は朝昼晩と1日3回くらい浴衣を着替えたとも聞きます。
そんな浴衣好きの江戸っ子。
染めの職人に「浴衣の裾をたくしあげたとき、裏っかわがのっぺらぼうで格好悪い。」という挑発に「だったら裏っかわも染めてやろうじゃないか。」と職人がいったかどうかは定かではありませんが、江戸の職人の技術向上は意外とそんなところにあったりします。
見事伊勢型紙の図案を表裏寸分の狂いなくきれいに白抜きする技術が出来上がりました。
想像してみてください。
ハンカチサイズの布でさえ、簡単な図案をまったく狂わせずに裏表型で糊づけするの難しくないですか?
それを6メーター超えの長さでやってのけるのです。
職人技を超え、神技と個人的には思っています。
この技法は江戸で瞬く間に人気となり、その人気は明治まで続いたと言います。
明治以降は洋服文化も主流となってきて浴衣の需要も減り、今この染め方のできる職人さんは東京でも数えるほどです。
この技法は後世にも残したいということで重要無形文化財に指定されています。
長板中形の浴衣の特徴
長板中形の浴衣の特徴はなんといっても藍と白といったシンプルな色ながら伊勢型紙図案の優美さ、さらに裏表染め上げられていることによる浴衣自体のもつ表情の豊かさが特徴です。
袖周りや歩くたびにめくれる裾周りにもしっかり模様が浮かびあがる浴衣は優美さが違います。
一枚は持ちたい浴衣といってもいいかもしれません。
素材は綿がほとんどですが、絹などもあります。
浴衣で有名な「竺仙」さんでは多数取り揃えています。
伊勢型紙に彫られた図案は華やか。
好みはあるが、無数の穴で奥行きができるよう彫り方も工夫されているのがよく見るとわかります。
型から染めまで職人さんの集大成の浴衣と言えますね。
長板中形の着こなし
長板中形の浴衣は一般的には少し格の高い浴衣。
お祭りや花火大会にはちょっともったいない、よそゆきの浴衣です。
麻の長襦袢を着て、夏着物として楽しむこともできます。
その時は白基調のさわやかな博多帯などがきりっと見せてくれます。
帯は太鼓でしめ、白足袋に下駄を履くと一層凛とした印象に。
また、長襦袢なしの半幅帯でも粋になります。
格の高い浴衣なので、綿コーマ(既製の浴衣にあるような一般的な浴衣)とはちょっと違った着こなしがおススメです。
長板中形の浴衣が欲しいとき
一般的には売られていません。
一番品ぞろえがあるのが「竺仙」さん。
完全お誂えになります。
反物だけで百貨店で販売している既製の浴衣の倍近くの値段がしますが、確実な浴衣が手に入ります。
涼しげで粋な長板中形の浴衣。
興味ある方は一度「竺仙」さんに問い合わせてみてください。
春過ぎから百貨店呉服売り場などでも特設コーナーが設けられたりするので、それらをチェックするのもいいですね。
夏に向けて繁忙期になるので、仕上がりは発注から1ヶ月以上かかる場合も。
また、藍は色が定着するまで時間がかかります。
今年染め上がった反物は着れない場合もあります。
(通常1~2年おくのがいいとされています)
そのあたりも含め、ぜひ一度実物をみていただければと思います。
良い出会いがありますように!
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